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まったりとした完美内でのお話をしていこうかと思います 昨日5/15にギルドシャア専用を脱退しました いままで半年くらいカナ ずーっと参謀という立場にさせてもらっていた訳ですが (一時的にメンバーになったりマスターになったりもあったけど) 全く役に立たない参謀だったなと思い出されます んで元々自分で持っていたギルドに戻りましたとさ
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(おまえの強さすでに覚えた) (強さにもレベルがあってな) (お前の強さ こえるでぇ) (強さを極める者同士の契約や) (凡人にはわからん) 流れ流れてカイロまで 一期一会やめぐり合い(おおきに) 抜いて憑かれて男咲き 刃傷沙汰よ (やつらはこれでぶった切れ) おれのおれのおれの台詞に お前が泣いた (おまえの命貰い受ける) 二つの剣交わるとき ポルよりも強くなれる 動き出そうぜ Double-Action 今と過去がひとつになる瞬間 (もっと俺を追い詰めろ) (その攻撃・・・覚えたぞ・・・) 刀一本 床屋にて 店の親父に拾われて(なんでや) 髭は刀で剃っておけ お前の顎も (顎の下だなポルナレフ) 一度 一度 一度やったら 決して負けぬ (絶っ~~~~対に負けんのだ) 二つの声 重なるとき その強さ止められない はじき出そうぜDouble-Action 技と力ひとつになる奇跡を (次の攻撃は耐えられるかな?)(ウシャーーーッ!) スタンドだとしてもみとけやこの力 今こそ命燃やせ (白刃取り!?ま、まさか!) (たしかに・・・覚えたぞ・・・) (お前の望みは) (ポルナレフランドをおったてることやったんか?) (俺がいくら刀振ってもあかんはずや) (本体刀鍛治やからなあ) (アホやなあ) この力解き放つとき この時空 銀に染める とっておきのDo the Action 動き出せば二刀流!(チャリオッツ!) 二つの剣重なるとき(二人の達人にかなうか!) 誰よりも速くなれる(胴ががら空きや) 動き出そうぜ Double-Action(勝った! 間違いない) 今と過去がひとつになる瞬間 (そらぁ どんどん押し込んでばらばらにしてやるで) (しかし どんどん折り取られていってしまうッ!) (俺の強さはお前を逃がすつもりはない) (くたばれ!) (俺の強さ(?)にみんなが逃げた) (孤独です) (アヌビス神・・・再起不能)
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Story ID cigJyCWL0 氏(115th take) ~~ライブ15分前、ステージ裏~~ 「さぁ、僕たちのクリスマスライブだ、頑張っていこうよ」 「そうね、今夜は特別なライブにしたいわ」 「さぁ、行くわよぉ~ってばらしーはどこぉ?」 「ふゅ~、ばらしーいないのぉ~」 ~~一人で控え室にいるばらしー(ライブ開始10分前)~~ 「……コレは真紅…コレは金糸雀…コレは……」 ~~走って戻ってきたばらしー~~ 「はぁ…はぁ…はぁ…」 「どこにいやがったですかぁ、もう始まるですよ!」 「…ごめんなさい……」 ~~ライブ終了~~ 「お疲れ様ですぅ~」 「おつかれ様なのぉ~」 「じゃ、また明日のライブで会うのだわ、おつかれ様」 「じゃぁねぇ~、メリークリスマスぅ~~」 それぞれ家に帰ったローゼンメイデン。 真紅の鞄から 水銀燈の革ジャンのポケットから 翠星石と蒼星石のコートのポケットから 雛苺のポシェットから 金糸雀のスケジュール帳から 小さな手紙がヒラリと落ちてくる。 うまいとは言えない手書きの文字に、短い内容。 だけど、それを読んだローゼンメイデンのメンバーは暖かい微笑みを浮かべた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ いつもありがとう、うまくしゃべれなくて、話すのが苦手な 私だけど、いつもみんなにはカンシャしてます、みんな大好きです。 この先ずっと、みんなとバンドをして世界中をまわりたいです。 こんなことを言うのは恥ずかしいから手紙にしました。 メリークリスマス ばら水晶 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 引っ込み思案な薔薇水晶、うまく他人と話すことができない薔薇水晶。 他人とちょっとズレてる薔薇水晶、でも薔薇水晶の心は純粋で汚れなく、 彼女の名前のごとく水晶のように輝いています。 そんな薔薇水晶から、きっとこのスレにいるみんなにステキなクリスマス カードが届くでしょう。 短編SS保管庫へ
https://w.atwiki.jp/dtlog/pages/63.html
ばら系 薔薇の陣営に属するマスター、ユニットを、エリクシールやマハトのものと区別してこう呼んでいる。
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絹旗は苦しげな呼吸を繰り返しながら階段を上っていた。 誰か、医師か看護士にでも見つかればきっと病室に連れ戻されてしまうだろうが、 不思議な事に院内はしん――と静まり返っていて、他の誰とも会わなかった。 その事に微かな疑問を抱きつつも絹旗はふらふらと階段を上る。 スリッパの立てるぱたんぱたんという平べったい音が狭い空間に反響する。 絹旗の体は絶えず揺れていて、ともすればふらりとその身を壁に寄り掛からせる事もある。 当然だが、まだ体力は回復していない。それを病室から出て数歩してようやく気付いた。 本来ならばまだ絹旗は病室のベッドの上で大人しくしていなければならなかったし、そもそも動けるはずがなかったのだ。 けれどどういう訳か、絹旗はこうしてふらつきながらも歩いていた。 ゆっくりと足が差し上げられ、階段を踏みしめる。 少女の矮躯は相応の重量しか持たず、それ故に負担が少ないのが救いだった。 ただ、絹旗が一歩踏み出すごとに、みしぃ、と建物が微かに軋む。 その能力を使って絹旗は強引に体を動かしていた。 とはいえ、それはあくまで運動補助具のようなものだ。 内臓にダメージを負っているものの比較的軽症だ。運動自体には支障はない。 けれどまた絹旗の体はふらりと左方に流れる。 ほんの些細な、指摘するにも揚げ足取りになるような事だが、確かに絹旗は、真っ直ぐに歩けていない。 ……右手の欠損。原因は確かにそれだった。 体力を奪われているのも、何かにつけて動き辛いのも、平衡感覚を失っているのも、原因は全てその一点に集約される。 ただの怪我ではない。怪我、と一言で済ませることができるならどれだけ楽か。 なにしろ体の一部を失っているのだ。それも取り分け重要な部位を。 感覚が集中し、意識して多用する身体の先端。その欠落は大きな意味を持つ。 精神的にも、肉体的にも、意識的にも、無意識的にも。 利き手を丸ごと失うという事態を――人はろくに想像できない。 それほどまでに『手』の存在は欠かせない。 重要すぎて当然になり、失う事など想定できないのだ。 ほぼ完璧に処置がされ、そこに痛みはない。 ただ、同時に数時間前まであったはずの感覚もない。 最悪にも絹旗は右手を完全に喪失した。 実感として必要なはずの痛みと共に。 だからこそ絹旗の体は見た目以上に、そして本人も気付かぬままに大きな損失を受けていた。 斯くして右手は使えず、かといって左手も、体を支えるための手摺りを握ってなどいなかった。 左手の内には、小さな四角が握られている。 絹旗にとってそれは、なんというか――お守り――みたいなものだ。 病室を出る時に何故か持ってきてしまったそれは、本当は絹旗の着ていた服のポケットに突っ込んでいたはずだ。 しかし手術の際だろう、目覚めてみれば病院着を着ていて、ぼろぼろになった服と一緒に纏められていた。 ――――まさか、見られただろうか。 そう不安になりながらも、絹旗はどこかで期待すらしていた。 こんなものを後生大事そうに持ち歩いている事を知ったとしたら、彼はどんな顔をするだろうか。 一時限りの使い捨てでしかないはずのそれを未だに持っているのは、どうしてだか捨ててしまうのが惜しかったからだ。 片手の中に納まってしまうような小さなそれが、他の皆にはない、自分だけの特権のような、そんな気さえしたのだ。 二度と使う事はないだろうけれど。 けれど、いつか使う事があると、どうしようもなく淡い期待を捨てきれずにいる。 ……R指定の映画など、そうそう見に行く事はないのに。 左手の内に握られた偽りのプロフィール。 いっそ本当にその通りになれたらとたまに思う。 何も知らない、ただの少女だったなら。 もしかしたら――今頃どうしようもなく下らない映画をポップコーン片手に見ていられただろうか。 そんな妄想じみた事を考えそうになって絹旗は頭を振る。 現実は容赦なく残酷だ。ポップコーンを掴む手はなく、目の前に広がる世界は映画よりも下らない。 i fそんなどうしようもない夢物語は少なくともこの場に於いて何の足しにもならない。 下らない妄想は捨ててしまえと絹旗は階段を踏みしめた。 夢の世界に逃げ込む事はできたとしても、それは現実からの逃避でしかない。 今、何よりも重要な事は。 「………………」 何をすればいいのだろう。 何が起こっているのか。分からない。 垣根はどうにも窓のないビルへ侵入したいらしいが、正直なところ絹旗にはどうでもいい。 ただ、絹旗の願いは。 (下らない映画を見て――それで、馬鹿みたいに笑っていたいんです) 決して叶わぬ事であるのは重々承知している。 けれど、それを願う事で人は生きていけるのではないのだろうか。 何も高望みをしている訳ではない。 どうしようもなく平凡で仕方ない、愚にもつかないような日常が欲しいだけだ。 ただただ笑って過ごせる日々が、年相応の楽しげな日々が。 暗部に身を窶している自分がそれを言うのは傲慢とは思えども。 どうしようもなく輝いて見える日々を思うからこそ、こんな地獄の中でも生きていけるのだ。 そして――――。 (願わくば――みんなも同じであらん事を) そう。 人は皆、笑って生きていたいのだ。 悲嘆も憤怒も哀悼も狂気も必要ない世界を生きていたいのだ。 だからこそ、それが叶わぬと知ってなお抗い続けられる。 「あ――――」 不意に襲う酩酊。 ふらりと、体の力が抜け絹旗は身を横に流す。 階段を踏み外すほどではないがよろめいた体。 体力は最初から限界に近いのだ。忘れていたとは言わないが、高を括っていた事も否めない。 安静にしていなければならない体を無理矢理に動かしているのだ。気力だけでどうにかなるものでもない。 思わず手摺りを掴み、絹旗は歯噛みした。歩く事すらままならぬ。そんな自分が動けたとして、足手纏いでしかないだろう。 けれど何かせずにはいられないのだ。この妙な気配のような感覚もだが、何より絹旗は現状に抗いたいのだ。 手を拱いているだけでは木偶人形も同じだ。 少なくとも絹旗は、こうまで目の前で何かが起きているのに黙っていられるほど寛容でも無感動でもなかった。 そして何よりも。嫌な予感がするのだ。 虫の知らせに近いそれは最悪な事態を絹旗に予感させている。 何か途轍もなく嫌な、救いようのない最悪が起こるような気がするのだ。 急かすそれに焦れったさを感じながら絹旗は――――。 「…………あれ?」 違和感があった。 何かが違うのではない。 おかしいのでも、間違っているのでもない。 そう、何かが正しい――そんな違和感。 まるで騙し絵のような錯覚の中にあった。 なんて事はない、物凄く単純な解。 いや、単純だからこそ、簡単だからこそすぐには気付けなかった。 「――――――、」 ――そしてようやく気付いた。 視線は右。 手。失われたはずの。 手首から先が切断され、傷口は真っ白な包帯で塞がれている。 そんな木偶にも等しい右腕が。 存在しないはずの指先が感覚を得ていた。 階段の手摺りを、見えない手が掴んでいるのだ。 それはあまりにも自然で、絹旗が一時の間錯覚してしまうほどに。 分かっている。 それは正しくは手ではない。絹旗の持つ能力、不可視の気体だ。 けれど。 何か、曖昧で不確かで、目には見えないけれど。 それでも確かなものを掴めた気がしたのだ。 「………………ええ」 形を変えてしまわないように気を付けながら左手が握る。 目には見えなくとも。形はなくとも。 確かに、絹旗の手は大事なものを握れるのだ。 そう確信した。 大丈夫だ。自分はまだ戦える。 まだ大事なものと、大事な人の為に。 絹旗最愛は生きていける。 そう思った矢先だった。 「………………え?」 絹旗は思わず声を出してしまった。 目に飛び込んできた光景がどうしようもなく現実味を帯びていなかったのだ。 赤。 それは一面に広がる赤だった。 闇の中にあってなお赤いその景色はどこか異国のようにも見え、絹旗は一瞬自分の立つ場所すら錯覚してしまう。 金属の軋む小さな音がして、やがてばたんと大きな音と共に扉が閉まった。 その事が嫌が応にも絹旗を現実に連れ戻す。 絹旗の立つのは極々平凡なコンクリートの地面で、それは病院の屋上だ。 背後の音は鉄扉の閉まる音で、体が感じるのは近付きつつある冬の風で、目の前に広がるのは。 真っ赤な、人の命そのものだ。 棒立ちになる絹旗の心の裏、ほんの少しの高みにいたもう一人の絹旗は妙に悟った思考でいた。 嫌な予感はこの事だったのだ。どうしようもない最悪は気付いた時には手遅れで、全てが終わった後だったのだ。 屋上の中心。風の吹く夜闇の中に赤の塊があった。 それが何かは闇と距離に紛れて分からなかったが、絹旗は直感的にそれを理解してしまった。 その大きさは、ちょうど人が蹲るほどの塊で。 床にべっとりと張り付いたものの端から伸びるそれは靴を履いた人の脚のようにも見える。 そして何より――強い風に片っ端から吹き飛ばされているが圧倒的な質量を屋上に広げるそれは――生臭い鉄錆の香だ。 生々しい、血液の臭い。 「あ――――ああ――――」 ようやく掴めたと思ったものはするりと指の先から零れてしまった。 その事を確かに胸中に欠落として、右手以上の喪失感として得た絹旗はどこか達観した視線で受け止めていた。 そう、ここは地獄だ。 全ては失われ、壊され、砕け散り、何もかもが残さず業火に焼き尽くされてしまう。 そんな世界だと理解していたはずだ。 だから何を今さら絶望する必要がある。 意識の乖離したまま絹旗はふらり、ふらりと赤に近付いていく。 それは確かに人だった。 粘質の赤い液体を被ったそれは悪趣味な前衛芸術にも見えるが、間違いなく人の形をしていた。 まるで血と肉と臓物の一杯に入ったバケツを頭からぶちまけたような格好で――そしてそれは恐らく間違ってはいない―― その人は微動だにせず、屋上の中心でぺたんと座り込んでいた。 肩に、腰に、腕に、足に、何やらべろべろとしたものが引っかかって風に靡いている。 その周囲には夥しい血の赤と、そしてそれを内包していたものの残骸であろう欠片がべっとりと広がっていた。 近付く度に、一歩を進む度に濃くなる血の臭いは、まだその中心の輪郭も茫としているにも拘らず最早むせ返りそうなほどだった。 さながらそこは屠殺場か、そうでなければ缶詰を開けたようだ。 フレデリック=ベイカーがそこで羊でも解体したのではないかと思うような有様は、あながち間違っていない。 その中で唯一、原形を止めてしまっているものがある。 矢張り真っ赤に染まった、長く横たわるもの。 それはどう足掻いても――人の下半身にしか見えない。 ぐっしょりと赤黒い血に染まるスラックスと革靴。 その爪先あたりは辛うじて元の色を残しているが、暗闇に溶けてしまってはっきりとは見えない。 その上部、人の上半身に当たる部分。 まるで粘土の塊を掌の付け根で擦り付けたかのように伸されていた。 極限まで薄くされた肉が屋上の床面にこびり付いてしまっていた。 その量を外見だけで判断できない。何しろ辺り一面に丁寧にびっちりと敷き詰められているのだ。 ただ――俯瞰視点から正確に表現するならば、それは人の上半身が一人分ほどの量だ。 無論、原形を留めていないそれを絹旗が海原光貴のものだと理解できるはずもなかった。 絹旗は夢遊病患者のように、まるで吸い寄せられるかのようにその中心部に向かって歩く。 スリッパの靴裏が湿った音を立てる。 さながらクレーターのように広がる血の海に踏み入れられた足が吹く風に半ば乾いてしまった水分を叩いた。 粘つくような不快感を僅かに裏面に残しながら、進む足を名残惜しそうに生々しい感触が引いた。 ぶよぶよとしたものを踏み付け、足は勝手に動く。一歩、一歩と近付いていく。 「――――――」 それは両足を正座から崩したように外にずらし尻を冷たい石面に直に密着させていた。 肩口の、血に濡れ乾いてしまい本来の質感を失ってしまったフェイクファーが風に微かに揺れる。 合成繊維で模られた背は引き伸ばされた血液にまるで油絵を塗りたくったのカンバスのような質感で、 ところどころが乾いた所為で罅割れている。それがどうにも気持ちが悪い。 地上から見上げるように伸ばされた僅かな光ではまともに見る事などできようもないだろうが、最早それとは数メートルもない。 徐々に血肉の中央にいる人影の陰影がはっきりとしてくる。 血塗れになってしまって見るも無残な様子ではあるが、その髪と雰囲気に覚えがある。 こちらに向けた背を回り込むようにゆっくりと移動する。 じわり、じわりとぼやけていた印象が記憶の中のものと結び付き形を成していく。 そして真横を過ぎた辺りでばらばらだったパズルのピースが一気に組み上がるように結実した。 それは――――滝壺理后だった。 「滝壺――――さん――――?」 震える声が唇の端から漏れる。 滝壺は寒さに身動ぎする事もなくその場に座り込んだままだった。 呆然と、どこか陶酔すら感じさせるような無機質めいた表情でいた。 その生気のない瞳は俯いたままどこかを茫と見詰めている。 そしてその口から溢れた血液が真っ白い肌を濡らし顎を伝い落ちていた。 「滝壺さん――――!」 思わず叫び、絹旗は両の手を滝壺に伸ばす。 右手の先が無くなってしまっている事も忘れたまま、見えない手で滝壺の肩を掴む。 しかし返ってきた感触はあまりにも頼りないものだった。 羽織ったウィンドブレイカー越しに伝わるそれは人の肌のものではない。 ぐにゃりとした、余りにも生々しくおぞましい――死肉の感触だ。 「ひっ――――」 思わず漏れた悲鳴と共に、半ば突き飛ばすように絹旗は手を離してしまう。 その衝撃に滝壺の体が傾ぎ――そのままごとんと屋上に倒れた。 重量の多く硬い頭部が速度をそのままに石の床に重々しい音を立て激突する。 にも関わらずその顔は相変わらずの無表情で――――。 滝壺は死んでいた。 「――――――!!」 声にならない絶叫が喉をごくりと蠢かせる。 「どうして」だとか「何が」だとかいう現実逃避に似た疑問が脳裏を掠める。 しかし本当に重要なたった一つの事実の前に絹旗の思考はショートしかけ、思わず数歩後ずさる。 目の前で、大好きだった少女が死んでいた。 びちゃりと湿った感触が足裏を叩く。 混乱しきった絹旗はそんな事に構っている余裕などなかった。 容赦ない現実と自身の叶うはずのない希望との軋轢に精神をごりごりと削られ心が悲鳴を上げていた。 認識したくない、理解できない、受け入れ難い現実を目の当たりにした時、人の精神は己を守るためにその奥底に閉じ篭る。 そして絹旗も例外ではなかった。反射的にシャッターを全力で下ろし、防衛機能のままにその心を封じ込めようとした。 しかしそれも叶わなかった。 他でもない滝壺――絹旗の世界の中心と言ってもいい、『アイテム』の中でも特別に親しい感情を抱いていた少女。 絹旗自身が最年少だというのに唯一敬称を付けて呼んでいた『滝壺さん』。 他の誰よりも――絹旗の中心に近かった、少女。 その向ける感情の比重故に大きい否定だが、同時に最も高い重要性のために絹旗は凝視してしまう。 見ようとしてしまった。 だから、間に合わなかった。 げんじつ少女の心を一つ打ち砕くには十分すぎる悪夢が閉め損なった障壁の隙間から転がり込む。 ごろりと。 崩れた滝壺の体、その胸に抱き締めるように抱かれていたものが冷たい石床の上を転がった。 「――――――は、」 最初、絹旗はそれが何か認識できなかった。 いや、理解しようとしなかったのだ。 ――人の心は防衛機能を持ち、精神の毒となる現実を受け入れる事を拒絶しようとする。 歪な球形。 所々が血の赤と黒に塗れ、カラフルでグロテスクな彩色をしたもの。 大半は肌の色で、やや乱れた短い糸のような人工の茶色のものが半分ほどを覆ったそれは。 「――――は――――ま、づら?」 ――――よく知った少年の首だった。 「い――――」 時が止まったような錯覚。 自分の周りだけが時の流れから切り取られてしまったような疎外感と孤独感。 世界から隔絶されたかのようなそれはまるで箱庭だ。 実際、目の前の景色は見慣れた現実味を帯びていない、シュルレアリスムの支配する様相だった。 血と肉と闇とが彩る世界。それは余りにも地獄的だった。 「や――――」 だが地獄。 そもそも最初から分かっていたはずだった。 少なくとも絹旗が身を置く世界は地獄そのものだ。 煌びやかな表舞台の影で蠢く最低最悪の世界。 そう知っていたはずなのに――絹旗は今の今までそれを本当の意味で理解していなかった。 「あ――――」 どうしようもなく最悪と醜悪と狂気と瘴気の塊でしかない現実。 知識と感覚だけで分かったつもりではいたもの。 じごく真の意味で想像を絶する現実が今、絹旗の目の前に広がっていた。 涙が意思とは無関係に溢れてくる。 それは眼球を覆い視界を滲ませる。余りにも辛すぎる光景を直視しないために。 ぼろぼろと零れる涙滴を気にする余裕もないまま、絹旗は一つの事実に気付く。 ぼやけた視界の中。 それはきっと偶然だろう。いや、偶然以外の何物でもないはずだ。 けれど最低に悪趣味な神様とかいう演出家はこの場に於いて絹旗に最も効果的な偶然で舞台を脚色する。 四肢を力なく投げ出し横向きに倒れた滝壺。 ごろりと、浜面の、首。 それが偶然にも、お互いをその正面に、見詰め合うような絶妙な配置で転がっていた。 勿論そこに当人たちの意思などは関係していようはずもない。 生気の欠片も感じられない虚ろな瞳。真っ白な死人の肌。 それは血に彩られた惨劇の跡でしかない。 けれど確かに、二人は見詰め合っていたのだ。 そして同時に絹旗は悟る。 この二人の世界はそれだけで完結し切っていて、その間に自分の入る余地など一片たりともなかったのだ。 「――――いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ ――――ぶつん、 ―――――――――――――――――――― 意識を失い、崩れ落ちる小さな体を優しく受け止めた。 「――――絹旗」 直前まで狂気に焼き尽くされていた彼女の顔だったが、眠る幼子のような安らかな表情にはその残滓もない。 それをどこか悲しげな微笑で見詰め、聞こえぬと分かっていても語り掛けずにはいられなかった。 「私、アンタの事さ、友達だと思ってたんだ。アンタはどうか知らないけど、少なくとも私はそう思ってた」 普通ならここは涙の一つでも流す場面なのだろうが、生憎とそんな高尚な物は持ち合わせていなかった。 抱く手に力を込め、肩越しに頭を垂れ、意識のない絹旗を後ろから抱き締める。その程度だった。 「んで、友達には絶対に使わない事にしてたんだ。だってそんな事したら友達だなんて言えなくなるじゃん」 全身の力を失いだらりと垂れ下がった両腕の上から抱えるように回し胸の前で交差させた手は震えてなどいなかった。 それを意識して己を忌々しく思う。「どうして」だとかそんな事はもう言う気はないが、それでも最低だと思うことに変わりはなかった。 「――――でも、ごめん。結局、使っちゃった」 だからせめて無表情でいようと、フレンダは目を伏せた。 冷たい夜風の吹き荒ぶ屋上には惨劇の跡しかなかった。 その悲惨な場景は人の心を瓦解させるには十分過ぎる。 まして、ほんの中学生の少女ともなればなおさらだ。 自分も実は中学生だけど、と心のどこかで嘯いて、フレンダは抱き締めた少女の温もりをしばらくの間感じていた。 風はあまりに冷たい。人の温もりはそれを和らげてくれる。 けれど自分にそんな資格はない。それは家族か恋人か、せめて友人に求めるものだ。 「ごめん、ごめんね――――絹旗――――滝壺」 記憶を彼女たちの笑顔が過ぎった。 もう二度と自分に向けられる事はないと理解しながらもフレンダは追憶する。 これは飴であり鞭だ。その眩しすぎる記憶は感傷と共に責め立てる。 それを失わせたのは――奪ったのは、自分だ。 「――――浜面」 目を向けず、記憶の中だけでその顔を思い返し、フレンダは言葉を繰り返す。 「ごめんねぇ……っ……」 ――――結局、この懺悔も偽者だけど。そうせずにはいられないという事もなかったけれど。 そんな冷めた事を思いつつも、それでも形式ばかりの言葉を繰り返した。 「…………そうね。結局、ただの自己満足よ」 そう囁く/嘆くようにフレンダは独白/告白を続ける。 「笑っちゃうわよね、ほんと。柄にもないって事は自覚してるわ」 は、と息を吐き出す。寒さに白くぼやけるそれはすぐさま風に流され霧散した。 「本っ当に滑稽だわ。結局、私はこれ以外に上手い方法が思いつかなかった訳よ」 けれど同時に、フレンダは安堵する理由を得る。 ――――これで全ての退路は絶たれ、残るは地獄の底までひたすらに突き進むだけの至極簡単な道だ。 滝壺は死んだ。 浜面も死んだ。 絹旗にはこうして禁忌を用いてしまった。 原因の全てとは言わないが、量の問題ではない。そうなる要因を自分が作り出した。 この結末に至る道があると予感してもなお――自分はそれを決断した。 もう彼女の帰るべき『アイテム』は、存在しない。 残る一人に会った時、何て言おうか、と頭の片隅で考えながら、 「ごめんね。でも、私もさ――」 言い訳だと理解し自嘲しつつ、誰かが見る事もない表情を顔に浮かべ、呟いた。 「――――結局、自分の居場所を壊されて黙ってられるほど大人じゃないのよ」 びゅう、と冷たい夜風が吹く。 寒いと感じてようやくフレンダは絹旗の格好に意識を向ける。 彼女は薄い病院着しか身に着けていない。ただでさえ彼女は体力が落ちているのだ。 このままでは風邪を引いてしまうだろうとフレンダはせめて屋内に移動させようと閉じていたままの目を開く。 暗闇の中の世界は相変わらずの血と死しかない悪夢で、そしてどうしようもなく現実だった。 少ししゃがむようにして体を折り、片手を絹旗の膝の裏に回し、もう片方の手で上半身を支える。 矮躯といえどフレンダも同じようなものだ。重い、と思ってしまう。当人が聞いたらきっと怒るだろうが。 (……そんな事、結局もうある訳ないじゃない) どこまで自分は能天気なのだろうか。気持ち悪い。 そんな侮蔑を自らに向け、フレンダは立ち上がろうとして――――。 「………………」 足元に落ちていた物に気付く。 四角い、名刺ほどの大きさの物だ。 少しだけ迷って、フレンダはしゃがみ込んだ膝を絹旗の尻に当て彼女の体を支えると左手でそれを拾う。 幸いにも床に広がった血は乾いてしまっていて汚れてはいなかった。 それは学生証だ。 記憶にある、絹旗が大事そうに持っていた紙切れ同然の重さしかないもの。 けれど彼女にとっては何よりも重いはずのもの。 視線を学生証に落とす。 そこには絹旗の顔写真が貼られ、そして偽りの名が書かれていた。 『 氏名 : 鈴科 百合子 』 「……結局、張ってた伏線は無駄になっちゃったけどさ」 小さく呟いて。 「大事なものなんでしょ? 結局、落としちゃダメじゃない」 学生証を絹旗の胸の上に置き、それを絹旗の残された左手に握らせる。 それから包帯の巻かれ手首一つ分短くなった彼女の右手をそれに沿えた。 絹旗の胸の上の学生証を落とさぬように気を付けながら再び抱き上げ、立ち上がる。 強く吹く風に髪を靡かせ顔を顰める。 ゆっくりと扉に向かって歩き、けれど二、三歩進んだところで立ち止まり肩越しに振り返った。 そこには血肉の海に沈む滝壺と浜面がいる。 「……ほんと、不幸だわ。結局、誰も彼もが不幸だった……としか言えないわね。 運が悪かったのよ。そうでも思わないとやってらんないわ」 誰に向けてでもなく言いながら、でも、とフレンダは続ける。 「でも……アンタたちはむしろ、それで幸運なのかもしれないわね。 もちろんそんな事が言えるはずもないんだけど、……こっから先を見なくてすむんだもの。それに、……、……」 それに、の後に続く言葉を言うのを止めフレンダは頭を振った。 柔らかく溜め息を付き視線を抱いた絹旗に向ける。 どんな顔を向けていいのか分からなかったのでとりあえず笑顔にしておいた。 「眠りなさい、絹旗。そしてせめて、その間くらいは幸せな夢を見なさい。結局、私はそれくらいしかアンタにしてやれないけど」 囁くように語りかけ、ようやくフレンダはゆっくりと歩き出す。 かつ、かつ、と靴底が床を叩く硬い音が響く。 やがて金属の軋む音に続きばたんと扉の閉まる音がした。 そして誰もいなくなった屋上。 二組の瞳がお互いをずっと見詰め合っていた。 前へ 次へ
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世界 僕達はここにいる けれど僕には解らない 明日が見えないよ 誰にも解らないって言うけど でもそういう意味じゃないんだ 僕には 明日の先にある光が見えないって そう伝えたかった
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部隊名 らんらん♪ 歩兵戦力 ∞ 裏方戦力 ∞ 所属国 カセ 部隊長 (´・肉・`) 人数(Act.) (´・ω・`)程度 部隊特徴 (´・ω・`) 部隊タグ (´・ω・`) 初心者育成 (´ิ^益^ิ`) タグ カセ 部隊 総評 (´・ω・`)らんらん♪ (´・ω・`)らんらん♪してね ↓ (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2009-08-10 17 56 50) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2009-08-10 19 36 56) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2009-08-17 19 28 49) (´・ω・`)ちんちん♪ -- 名無しさん (2009-08-17 21 15 23) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2009-08-17 21 56 14) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2009-08-31 13 03 13) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2009-09-01 10 41 56) らん豚帰ってきてー -- 名無しさん (2009-09-07 17 52 22) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2009-11-26 22 09 35) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2011-06-15 00 59 23) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2011-09-25 13 53 58) なんかここだけ平和・・・ -- 名無しさん (2011-09-25 21 54 49) (´・ω・`)らんらん♪ -- (´・ω・`)らんらん♪ (2011-09-29 07 05 07) 名前 コメント
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2歳~4歳までを対象とした東京都府中市の社会教育関係団体に登録されている母子自主活動グループです。 毎週火曜日の午前中、主に京王線府中駅のすぐ隣にあるグリーンプラザにて活動しています。 子供たちをベテランの先生方に保育して頂いている間、ママたちは別室で様々な活動をしています。(活動時間中は私用での外出は出来ません) 子供の団体生活の第一歩に、同じ年頃のお友達をつくりたい、ママもたまには息抜きしたいなど、色々な理由でみなさん参加されています。 ※ 募集要項はこちら - - -
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モバP「美世ー、次のお仕事が決まったぞー」 執筆開始日時 2013/05/03 元スレURL http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1367509980/ 概要 美世「ホント!?」 P「今度は北海道だ」 美世「北海道かぁ、結構遠いなぁ」 P「そういう訳だから、今回はh」 美世「お仕事っていつ?」 P「ん?明後日だが」 タグ ^モバマス ^原田美世 まとめサイト SSだもんげ! SS森きのこ! エレファント速報 ハイブリッドSS速報 ひとよにちゃんねる プロデューサーさんっ!SSですよ、SS!
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誰も居ない。誰も居ない街。誰も居ない家。その前に、独りで立っている。 夕焼けが空を赤く染め、視界のすべてのものが紅のフィルターを通して見ているように赤い。何の変哲もない景色。よく見る景色。……本当に? もうしばらくで沈む太陽は赤い。確かに赤いけど……街を、こんなに赤くしてしまうっけ。 まるで赤いペンキをぶちまけたみたいに隅から隅まで一部の隙もなく、まんべんなく染まっている。いや、それよりも深くて暗い。夕日はこんな風に、こんなにも深く街を塗り潰すだろうか。 この赤は、もっと身近なものだ。この赤は夕日によるものなんかではない。答えは分からずともそれは理解した。 「なんか、変な感じがするな」 つぶやく自分の声はまるで洞窟の中のように反響し、消えていく。それを奇妙と思わない自分を奇妙に思う。まあ、どうでもいいか。なんだか、全部がどうでもいい。 ふと、物陰で何かが動いた気がした。なんだろう。誰もいないのに、なんで。……なんで、誰もいないって知ってるんだろう。いや、なんでもなにも、誰もいないんだから誰もいないに決まってるよな。 じゃあ、今見えたのはなんだろう。何が動いたんだろう。ちょっと気になるな。 ただの好奇心で物陰のほうへ足を向ける。何かいたならそれは確認しておきたいし、なにもいなければそれでよし。別に難しいことじゃない。 赤い道を黒い影を背負って歩く。雨でも降ったのか、道路は薄く赤い膜を張っている。歩くたびにぴちゃぴちゃといやに粘着質な音を鳴らし、水が跳ねる。 そこに何かが本当にいるなんて、そんなことはぜんぜん思っちゃいない。どうせ気のせいだろう。 そう思っていたから。 そこに『そいつ』がいるのを見て、俺は言葉を失った。 犬がいた。そこに犬がいた。猫でも猿でも羊でも狼でも鰐でもなく、犬がそこにたっていた。 ぎょろりとその眼球が動き、俺をじっと見ている。右の眼球で、じっと俺を見ている。左の眼球はすでにその機能を果たせる状態ではない。何しろ頭蓋が損傷しており眼球が零れ落ちているのだから。神経によってかろうじてつながったそれは、犬の呼吸に合わせてぷらぷらとゆれている。 それだけではない。脳もむき出しになり脳漿が零れ、ほほを伝って流れ落ちている。胴体も脇腹から腹にかけてがくりぬかれてきれいに抉り取られ、中身がこぼれてなりだらりとぶら下がっている。 そんな犬だった。死んでいる犬だった。死んでいる犬が動いている、ただそれだけの話だ。 なにも異常な話ではない。すべてが赤いこの異常な世界に、こんな異常なモノが生きていることに何の不思議があるというのだろう。 「――あ。う……あ」 しかし結論と感情は相反する反応を示す。恐怖、拒絶。目の前のモノを否定する感情に心が縛られる。 おかげで意味を成さない声が自分の口からもれたことに気づくのに数秒を要した。 だって、こんな。なんで、こんなもの。 わからない。自分が何におびえているのかがわからない。そのとき、犬が口を開いた。 「おい、お前」 聞き覚えのある声。いや、そんなもんじゃない。その声は。 「お前が俺のこと忘れちゃ、だめだろう?」 ――俺の声。 そうだ。ああその通りだ。俺がお前を忘れることはきっと許されない。奪われた者を奪った者が忘れるなど、傲岸不遜甚だしい。 奪った? 俺が? 何を? フラッシュする記憶が神経を焼く。 「うわああああああああああああああああ!!!!」 「お前が俺を、」 「ああああああああああああああああああ!!!!」 俺の悲鳴が、犬の言葉をかき消す。違う、俺の悲鳴で、犬の言葉をかき消す。 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い! 何でこんなところに俺はいるんだ。思考が混乱し、視界歪み、意識が惑う。まともに立つことさえかなわなくなった俺はその場に崩れ落ち、地面に手をついた。 ぬるりとした感触。ああ、この感触は。この赤いものは。今まで目をそらしていたもの、気付かないふりを続けていたもの。この、鼻を突く独特のにおいに気付かないはずがなかったのだ。 喉からせり上げてくる嘔吐感をこらえることもできずに、胃が押し出したものをすべて吐き出す。吐き出したものもすべてが赤い。どろどろとしたよくわからない何かたちが、びちゃびちゃと不快な音を立てる。それをぬぐうこともせずに、俺は呆然と自分の両手を見る。 真っ赤に染まった両手。そこからたどって、腕、肩、そして、胸。 そこは――まるで、正面から何かの返り血を浴びたみたいに真っ赤に染まっていた。 世界が赤い。誰もいない世界が赤い。赤い世界には誰もいない。まるで赤いペンキを天空からぶちまけた様に深紅に染まった世界。 誰も居ないのは当たり前。 全部が赤いのも当たり前。 だって。 みんな。 この世界をその血で埋め尽くすくらいに、そのすべてを流しつくしてしまったのだから。 ここしばらくでは珍しいことに、目を覚ましたのは俺が一番最後だったらしい。 なにか嫌な夢を見ていた感覚だけは残っているんだけど、どんな夢だったのかはまったく覚えていない。それが逆に不気味だった。朝起きたときパジャマにべっとりとついていた汗。それがなぜか、とてもおぞましかった。 「ちょっと兄貴、入り口にぼけっと突っ立ってないで早く入りなよ。って、なにそれ、布団?」 食卓に座っている美羽が俺に気づいて、さらに俺が抱えているものにも気づいた。俺が持っているのは掛け布団だ。さて、どうしよう。もとより隠すつもりはないけど、いざ言うとなると気後れが。 それでも言わないわけにもいかないので、正直に布団を広げる。目の前に大きく広がった布団には、頭がすっぽり入るくらいの穴がきれいにあいていた。 いやー、実は寝てる間に魔法が出たらしくて、なんか穴が開いちまっててだな、その……どうしよう?」 「まあ……ずいぶんときれいに穴が開きましたね」 「切り口も見事なものだ。これがヒロト殿の魔法の効果なのか」 俺の魔法を始めてみるレンさんとユリアさんが感心している。いやあの、物的被害が出てるしあんまり感心する場面じゃないと思うよ? ところが肝心の美羽と美優からのリアクションがない。穴から顔を出してみる。 「「………………………………」」 無言。心なしか顔色が悪い。二人ともパンを口にくわえたまま固まってしまっている。いくらなんでも驚きすぎだ。 「えっと、お二人さん。なんか、予想してた反応とぜんぜん違うんだけど……大丈夫か?」 「え、あ、な、大丈夫よ、大丈夫に決まってんでしょ! ね、美優!」 「うん! だい、だいじょ、だいじょぶだよ!」 実に嘘が下手な姉妹だった。どうしよう、すごく気になるけど突っ込んだほうがいいのか。でもたぶん教えてくれないしなぁ。 「ちょっと兄貴、なにその哀れみのこもった視線は。なんか馬鹿にしてない?」 「いや、お兄ちゃんは妹たちが素直に育ってくれてうれしいよ、うんうん」 ……まあ、布団に穴あけたことを怒られなかっただけでもよしとするか。後で新しいのと変えておこう。 明らかに俺の言葉を信じていない姉妹の視線を華麗に受け流しながら朝食を食べた。 そえでも胸の中の不安は消えることはない。妹たちの顔にかかった影も同じく。そうして逃げて、いつものように流されている。じゃあ、その先にもしも逃げ道がなくなったら。流れる先がせき止められたら。その時俺は、どうなるのだろうか。 だーるーいー。授業に身が入らないー。現代国語ってー、だるー。 大体現代国語ってやるいみあんのか。小説の問題で『ここの主人公の気持ちを答えなさい』とか作者にしかわからないだろうに。読者はあくまで想像するだけなんだからそれを問題にするのはおかしくない? テレビでも小説家の先生が言ってたぞ。入試問題に自分の小説が使われてたけどぜんぜん違った解釈されててワロタって。なので現代国語はきゃぴきゃぴしたぎゃるとか夜のコンビニの前に集団でたまってる金髪のにーちゃんとかに正しい日本語を教えていればいいと思います。 「って言ったらなんかすごく怒られた」 「いやヒロ君、さすがにそれは怒られると思うよいくらなんでも。せめて小学生までに徹底的に教え込むとか、そういう未来のヴィジョンを見据えた意見を出すべきだったと陽菜は考えるね」 む、陽菜にしてはなかなか高度な意見じゃないか。だがしかし、仮に今教育制度が変わったとしてもそれが俺たちに適用されることはない。つまりどの道卒業まで現代国語という授業を受け続けなくてはならないのだ。 正直面倒なんだ。だって意味わかんないんだもん。 「ヒロ君そんなに現代国語苦手なの?」 「うんにゃ。むしろ点数だけ見たら得意な部類に入るかも。けどそれって本文の内容を読み解いてるっていうより、出題者側の意図を読んでるだけだしなぁ。あんまり面白くないぞ」 出題者と俺の意見が一致している場合はいいんだけど、たとえば俺の読み解き方と食い違った場合なんかすごく悲惨。だって選択問題とか、選択肢の中に答えがないんだもん。どうしろと。 「あの、お二人で何の話ですか?」 「ああ、さっきの授業でしこたま怒られたからその愚痴を。いまどき廊下に生徒を立たせる先生なんかいないってーの」 「い、いないんですか? でも、テレビにはよく出てきていますよ!?」 相変わらず順調にテレビの悪影響を受けている。むしろテレビだけじゃなくこっちの世界のメディア全般に耐性がなさ過ぎるともいえる。 「テレビと現実は別だからね。そんなテレビみたいにいきなりかわいい女の子と知り合ったり家に押しかけてきたりなんて話がそうそう……」 いや。 むちゃくちゃ心当たりがあるって言うか、実例が目の前にあるわ。どうしよう、なんかテレビって実は全部本当のこと流してたりするんだろうか。 いやまあ、そんなことになってたら世界中のでっかい湖には巨大生物がいて某国にはUFOがファンファンきちゃってて宇宙人未来人異世界人超能力者がいてオタクが世の中闊歩しちゃうからそれはないだろうけど。……最後のはあながち間違いでもないか? まあいいや。 「そんな怒られて廊下に立たされたヒロ君と、実はその前から廊下に立たされていた陽菜とでずっとぐちぐちしゃべっていたわけ」 「なるほど……廊下からたまに聞こえてきていた陽菜さんの叫び声はそういうことでしたか」 うぐっ、と陽菜が言葉を詰まらせる。陽菜はテンション高いからなぁ。こっそり話せと言ってもすぐに大声になる。おかげで10分たたされるだけのはずが授業が終わるまで延々と立たされる羽目になったわけだ。まあ反省せずしゃべり続けた俺も悪い。 「お二人とも、授業中なのにずいぶん楽しそうでしたものね。聞いているこちらも微笑ましくなるくらいでしたよ、ええ」 「え……あ、うん、そう?」 あれ……なんだろう。ユリアさんは笑顔なのに妙なプレッシャーを感じる。陽菜もそれを感じているのか、顔が引きつっている。お、おかしいな。そんなに怒るくらいうるさかったかな、俺たち? 「あのー、ユリアさん。つかぬことをお伺いしますが、私めは何かあなた様を怒らせるようなことをしましたでしょうか?」 「あらあら、ヒロトさんたら冗談が上手ですね。私がいつ起こったって言うんですかほら見てくださいよいつも通りの私じゃないですかそれなのに私のことが怒って見えるなんてそんなヒロトさんそうだ今から眼科か脳外科にでも参りましょうか」 ひいっ! な、なんかよくわかんないけど怖い! これ絶対怒ってる! 教室の中を視線を走らせ――いた。レンさん! 助けて!! しかしレンさんはどこか気まずい表情のままつい、と視線をそらした。あ、うそ、なにその知らん振り!? ずるくない? 大体あなた護衛でしょう姫様のそばにいつもいなくていいんですか!? (すぐに駆けつけられる場所にいるから平気だ! そ、それに常に私がそばにいては姫様もくつろげないだろう!!) そんなのいいわけだい! ユリアさんのそばに居るのが怖かったに決まってる! (な、なにを馬鹿なことを。この私が姫様を恐れることなんか、あ、ああああ、あるわけが、ななななな、ないだろう!) ほら今視線が泳いだ! 額から脂汗がだらだらと流れてるし、どう考えてもそれは嘘をついている汗だぜ! (ぬ、ぬぅぅぅ、だ、だがしかし、そもそも姫様がご機嫌を損なっているのはヒロト殿が原因であろう! もっと自覚を持て!) ええぇぇ。俺のせい? でも俺、何もしてないけど……。 ちょんちょん。 肩をたたかれる。なによ、今ちょっと重要な話し合いの途中で、 「ずいぶん熱心にレンと見詰め合っていましたがいったい何をなさっていたんですかヒロトさん目の前に私がいるのですからちゃんとこちらを向きましょうね」 「は、はい」 ぎりぎりと首の向きを固定される。これでレンさんとのアイコンタクト会議は強制終了となった。ていうかなんであんな鮮明にアイコンタクトで会話してるんだ、俺たちは。いつの間にか妙な特技に目覚めていたようだ。 そんな特技が必要な人生送りたくない……。 「あー、こほん。いいですかヒロトさん……その、えっと」 視線をあちらこちらに彷徨わせるユリアさん。あのー、まずこの姿勢といてもらえませんか。顔をつかまれて正面向かされているってことは、自然と顔と顔の距離が近づいちゃうんですけど。 今度は心なしか陽菜のしせんが突き刺さってる気がするし、周りの連中も何かを期待するようなまなざしをしている。お前ら、別に何もしないからわざわざ歩行速度を緩めてこっち見てないできりきり歩きなさい。 「あの、ヒロトさん……その、これからどうしましょう」 「いや、そこで俺に訊ねる、普通?」 ですよねー、なんて言って力ない笑顔を浮かべるユリアさん。なんかテンションおかしく見えるんだが、大丈夫か。しかも相変わらず俺の顔を固定する力が緩むことはない。完全拘束。 ……キスしたろか。いやしないけど。なに考えてる俺。自分の考えに自分で動揺してたらい見ないだろうが。そもそも冗談なんだし。 「あー、とりあえず俺としてはこの手を放してもらえると――」 ――ぞわり。 いつかと同じ、吐き気を催すほどの悪寒。全身を虫が這い回るような錯覚さえ起こす感覚。しかも近い! 「どこに――!?」 「きゃぁっ!?」 いる、の言葉が出る前に、廊下が立っていられないくらいに大きく揺れてバランスを崩した。倒れそうになるユリアさんを抱きとめ、壁に手をついて堪える。振動はすぐに収まった。廊下に立っていた生徒はほとんどが座り込んでいる。それだけの衝撃が走ったということだ。 窓に駆け寄って身を乗り出す。どこだ、今のはどこが揺れた? 視線をめぐらせて、煙を上げている区画を見つける。目を凝らす。爆発でも起こったのか、壁は崩れているらしいが煙でよく見えない。くそっ、これじゃあ本当にあいつなのかわからない! すぐにその場を離れ、まだ大半の生徒が呆然としている廊下を駆け出す。 「ヒロトさんっ、どうしたんですか!?」 「ユリアさんはそこにいて! みんなも教室から出るな!」 言葉だけを置き去りに、階段を飛び降りる勢いで下りていく。すれ違う生徒たちが驚愕の視線を向けてくるが気にしている余裕はない。もしもあいつが――ポーキァがこの原因なら、何も知らない誰かと鉢合わせてしまうのはまずい。あの狂気を秘めたガキがたまたま出会った相手に何もしないなんて楽観することの方が難しい! 現場に近づくほどに人が増えてきている。くそ、好奇心が殺すのは猫だけじゃないんだっての! 「邪魔だ、どけっ!!」 人ごみをかき分ける。さすがに危険だとわかっているのか、煙の向こうにまで行こうとしてる人はいなかった。俺はそいつらを尻目に立ち上る煙の中へと駆け込む。破壊された教室に踏み込むと、むわっとした熱気が襲ってきた。火災報知機やらはどうしたんだ? 幸い、炎の規模はそこまで大きいものじゃないらしい。このくらいなら、少しくらいならこの場にいられるか。ハンカチで口を覆い、煙を払いながら教室の中を見回す。 いや……いる。わかる。 「何の真似だクソガキ。物陰からこそこそ俺を狙おうってのか」 傾いた掃除用具入れが弾け、中からポーキァが現れた。相変わらず、むかつく笑顔を浮かべている。人の学校壊しておいて笑ってるとか。まあ見たところ人的被害が出てないのが唯一の救いか。だからといって感謝する気にはならないが。 「んで、何のようでこの学校に? ここはお前が来るにはまだ早いぞ、小僧」 「なんだよ、冷てぇなあ。それにしても俺がいるってこと、やっぱりわかるんだな、すごいじゃん」 人のことこっそり魔法で狙撃しようとしてなけりゃわかんなかったよ、とは教えてやらない。あいつの右手はまだバチバチと危険な音を立てている。この状況でポーキァが俺を狙うのが早いか俺が隠れるのが早いかを試すような物好きな神経はしていない。 「そんなことはどうでもいいだろ。んで、まさか遊びに来たわけじゃないよな。目的は前も言っていた、お姫様ってやつか?」 俺がユリアさんのことを知っていることは言わない。今校内にユリアさんがいる事を考えると、こいつには早々に引き取ってもらったほうがいいだろう。 ポーキァは俺の後ろをきょろきょろ見ている。何を探している? 「あのさあ、サフィールのヤツいねえのか? あいつにヒメサマのこと聞きたかったんだけど」 「しらねーよ、あんな貧弱野郎。どうせさっきの衝撃でこけて頭打って気絶してんじゃねーのか」 「ひゃはははっ! ああ、それは確かにありそうだな!」 腹を抱えて笑うポーキァ。けど、油断できない。相変わらず雷をまとっていることに変わりはないのだから。 無駄話に興味はない。俺もこいつから情報を仕入れなくてはいけないのだ。そのためには――多少、危ない橋を渡る必要があるか。 「おいポーキァ、せっかくだし俺はお前に聞きたいことがあったんだが、聞いてもらってもいいか」 「ああ? 別にかまわねえけど、面白くもないこと聞きやがったら灰にするぜ?」 「やれるもんならやってみろ」 挑発的にポーキァの眼光を正面から受け止める。ふざけた態度とは裏腹に、その瞳には何かしらの覚悟が、強い決意が窺い知れた。 だけど、俺にだって退くわけにはいかない理由がある。お前なんかにまけてらんねんだよ。 「お前、仲間がいるのか。今世界中のコミューンが魔法使いに攻撃されている。それも、そこを襲う奴らはたった一人でコミューンを制圧してしまってるらしい。通常魔法の使い手が、な。んで、お前はその中の一人なのか?」 「あれ、俺達のことそんなに広がってんの? なわけないよなあ、あんたもしかして、結構俺らと同じタイプの人間なわけ?」 人から教えてもらっただけだっつーの。まあ、その人は裏で何やってんだかよくわからない人なんだけど。もしかしたら正義の味方みたいなことをしていても俺は一向に驚かないな。 「知るかよ。とにかく、お前らはその連中の仲間って事でいいんだな」 「仲間ってのも微妙だなぁ。俺らの目的はみんなバラバラだからな。そのためにてにいれねーといけない手段が同じだから協力してんだよ」 「その手段っていうのが、この世界をぶち壊すこととなにか関係があるのか?」 その質問にポーキァは邪悪に顔をゆがめる。その嗤った顔はむかつくからやめろ。 「そうだなぁ、まあなんつーか、目的を達成する手段のためにこの世界が壊れるっていうだけの話だな」 だけってなんだ、だけって。ここで生きている俺たちからしたら迷惑千万だぞ。 だからといって他所でやれというわけでもない。そもそも、そんな厄介なことを始める思考が俺には理解できない。 「じゃあなにか、お前らそのためにお姫様が必要だってのか」 「そーなるね。オニーサン、頭いいじゃねえか」 うるせえよ黙れって、俺は今考え事で忙しいんだよ。 とにかくこのポーキァは単独で街ひとつつぶせるような化け物軍団の中の一人で、そいつらはこの世界を崩壊させるつもりだ、と。さらに言えば、この世界の崩壊はこいつらの目的のための手段を手に入れる過程で壊れてしまう。つまり、こいつらが、この世界の崩壊の原因か。 ……てことは、だ。こいつらはユリアさんに接触しようとしている。それだけならこいつらからユリアさんを守るだけでいいけど、このまま調査が進んで世界崩壊の原因がこいつらにあるとユリアさんが知ったら……間違いなく、あの人はこいつらを止めようとするだろう。 危険、だろうな。こいつらがなぜユリアさんを求めるのかはわからないが、まっとうな理由じゃないことだけは予想がつく。そんな奴らにユリアさんを渡すわけにはいかないし、接触させる事すら危険すぎる。こいつらの目的のためか手段を得るためかは知らないが、いずれにせよ彼女を危険に晒すことには違いがない。 よし、決まった。 つまりは俺がこいつら全員をぶっ潰せばいいんだな。そうすればユリアさん達は調査だけに専念できるし危険もなくなる。俺は調査には参加しないしこれは調査とは別口なんだから、彼女らに怒られる心配もない。 そら、万事解決だ。 「んっんー? なーんかオニーサン、目つきが変わったねぇ……それはあれだ、敵を見る目だ」 「残念、俺が敵にしていいのはひとりだけって決まってるんだ。お前ら全員まとめてじゃあ定員オーバー。けどまあこの世界を壊されたら俺らが生きてけないだろうが。だったらお前らはこの世界全体の敵だ」 「そりゃーそうだけど、なーんかオニーサンの場合は違う気がすんだよなー。まぁいいか。じゃああんた、俺達の敵になるんだな」 それが一番正しい表現だろう。俺の敵がポーキァたちというよりはポーキァたちの敵が俺を含んだ世界全体というべきか。もっとも、こいつらのばかげた力に対して敵足りえる実力がこの世界にあるのかは俺の知るところではないが。 炎がちらちらと揺れる中、俺達は無言でたがいを睨む。ポーキァの放つ雷が右腕から全身へとその体を覆っていく。緊張が高まり、音がなくなる。 が、そこでポーキァが緊張を解き雷を開放した。なんだ、どうしたんだ? 突然の無防備な姿に戸惑ってしまう。 「なあ、オニーサン。よくよく考えたらさあ、俺あんたとまともに戦う理由がねえんだよ」 「お前になくても俺には十分あるわけだが」 「そりゃそうだけどさあ、俺前回派手に暴れたから怒られてんだよね。今回のこれも、サフィールのヤツをおびき出すためだったのにあんたがきちゃうし。もう俺としてはさっさと引き上げて――」 「ユリアさんの居場所を教えてやろうか。誰がこの世界でかくまっているのか」 ポーキァの表情がすとんと抜け落ちる。次いで、裂けんばかりに口が開かれる。眼は釣りあがり鋭い眼光が俺を射抜く。 「あっはっはっはっは! 知ってんだ、知ってたんだ! 俺ずっとだまされてたんだ!」 「それが何か問題でも?」 「あーもう、アンタムカつく。おっけー、じゃあアンタは俺をぶったおしたくて俺はアンタを締め上げる、わかりやすくて助かるぜ」 ああくそ、怖いな。自分をすぐにでも殺せる相手が目の前にいて、殺意を持って見られるだけでこんなに怖いのか。 自分の口が引きつったような笑顔を浮かべるのがわかる。不自然に見えない程度に速やかにポーキァに背を向ける。もう表情を取り繕っているのも限界だ。 「今夜――また学校に来い。俺がお前を迎え撃ち、お前が全力で俺を狩る。相手をツブせばそいつの勝ちだ」 「面白そうなゲームじゃん。いいぜ乗った、今夜だな? けど、俺にはアンタ以外にも手がかりはあるんだ。殺してしまっても文句は言わないでくれよ」 「安心しろ。俺だってお前に手加減する理由なんかないんだから」 そりゃそうだ。と心のそこから愉快だといわんばかりに笑い、ポーキァ一瞬でどこかへと消え去ってしまった。俺はその場で立ち尽くす。全身を流れる汗は、熱に当てられたものだけじゃないだろう。 さあ。これで、覚悟を決める必要が出てきた。まずは、対策を練らないといけない。ヤツの力を封じ、ヤツを捕らえる策を。 話を聞いた乃愛さんは、あきれたという代わりに盛大なため息をついた。 「それでヒロト君は、この学校を戦場にするつもりかい?」 「ほかに俺が指定できる場所がなかったんですよ。それに、あのままポーキァをほっておくわけにもいかないじゃないですか」 乃愛さんも相手が貴重な情報源だということはわかっているが、それ以上に危険だということを考えているんだろう。当然だ、俺だってユリアさんが関わっていなければあんなやつとやり合うなんて御免だしな。 「それで、君が勝つために私にやってもらいたいことはたったのそれだけ、なのかな?」 「はい、それだけです。ただ一言付け加えさせてもらうと、勝つためじゃなくて……」 「負けないため、か。君は正直だな。ポーキァには相手を叩き潰すみたいなことを言っておきながら、本心ではそんなことを考えていない。ポーキァが姫やミウたちに近づかなければそれでよし、か」 乃愛さんの言うとおりだった。俺の力でポーキァを倒すことは難しいだろうし……それ以前に、たとえどれだけ危険な人間だからといって俺にそれを殺せるのかというと疑問だった。そんな迷いを抱えるくらいなら最初から殺すなんて選択肢は消しておくに限る。 とにかくあいつを俺に釘付けにし、他にかまっている余裕を無くす。可能であれば捕らえてしまうのが上策だ。その後のことはこの人に任せてしまえばいい。なんとも、汚い考え方だと思うけど。俺は結局自分の周りのことくらいしか考えられないのだ。 「そんなわけで、しばらくはユリアさんの周りに気を配ってください。それと、エーデルのヤツも今日はどっか別のところにおいてもらえませんか、邪魔です」 「やれやれ。ほかの手助けもいらないか。別に姫の警護を少しぐらい回すことはできるし、他から増援を呼んでもいいのだよ? いやむしろそうするのが当然だと私は考えるが」 乃愛さんの言葉はもっともだが、それじゃあ意味がない。 「そんなことしたら学校で本格的に大規模な戦いをしなくちゃいけなくなるじゃないですか。明日終業式なんですから、せめて明日までは最低限の形を保っておいてもらわないと」 それが俺の考えだった。夏休みに入ってから壊れるのならまあまだいい。業者を呼んでその手の魔法使いを呼べば、新学期までには直るだろう。だが夏休みに入るのは明後日からだ。明日までは学校がその形を持っていてもらわないと、ユリアさんたちの日常が壊れる。 世界崩壊の調査なんてしている段階で半壊状態なんだから、これ以上壊すわけにもいかないだろう。 俺は、彼女や妹達の日常を守らないといけないんだから。これから先の日常を守るために戦っている彼女達のために、俺は今の日常を守らないといけない。そのためになら俺はいくらでも、非日常に踏み込む。その上で、いつも通りに過ごしてみせる。 それが、乃愛さんや陽菜と話をしたことで俺が決めたことだった。 「まったく……つくづく、どうして君がこれほどまでに私に似て育ったのかと疑問でならないよ」 「まあ、乃愛さんにはずいぶん長い間世話になってますし、その影響とかじゃないですか?」 「それはないだろうな。ま、そんな話は今はどうでもいいことだ。とにかく君は、今日一日を無事に乗り切ることを考えたまえ」 確かにそうだな。明日を迎えるために、今日を乗り切らないといけない。 あの雷小僧を踏み越えないと。 大翔が出て行った職員室。すでに他の教員は姿を消し、彼女一人だ。 さてと乃愛は考える。大翔の言うことはもっともだがこの世界を守るために走り回っている自分としてはこれだけで良いとは到底思わない。しかしながら彼女にとって大翔からの助力の申し出というものは特別な意味を持っているのだ。 つまるところ、彼の申し出を実行しつつ、彼の戦力を増強しなくてはならないということになる。 大翔の申し出をまとめると、三つだ。 ひとつ、結城家近辺の警護を強化すること。 ひとつ、今夜学校に残るであろう人物に退去の命令を出すこと。 ひとつ、明日まで学校の形状を最低限維持していること。 「そうなってくると……まあ、私の言うことに耳を貸さない人物をけしかけるのが得策か」 幸い彼を気に入っている人物でこういうことが大好物の人物には昨日の時点である程度の事情を話してある。そのほかにも『彼女』もいてくれれば心強いだろう。大翔の望む状況とは違ったものになるだろうが、彼女とて学校の関係者全員に自分の言うことを言い聞かせることができるわけではないのだ。 その分、自分が大翔の家に行けば万全とは行かなくともおよそポーキァ程度なら取り押さえられる。それだけの実力者と布陣を備えているのだ。 「問題は、あの家の住人を相手にどれだけ私の嘘が通用するか、ということだな。まったくヒロト君も面倒な事を頼んでくれたものだ」 苦笑する。あの家に揃っているのは大切なものを一度ならず数度失った者達だ。それだけに、そういった気配に関しては特に敏感なところがある。大翔が向かうのは間違いなく死地だ。それを送り出した自分に対して後ろめたさがないはずもない。さて、それを悟られた時に自分が口を割らずにいられるかどうか。それ以前に、大翔が夜に帰らなければ不審に思うだろう。 「ミユを誤魔化しきる事ができれば、事は成したも同然なのだがねぇ」 乃愛も美優の深い過去までは知らない。だが深い喪失と後悔がそこにあることは何となく察している。 「ま、なるようになるしかないのかもしれないね」 立ち上がり、夕日に染まる職員室を後にする。 今夜がひとつの山場になるだろう。そこでどのような事が起こるか次第で、あるいはこの世界の運命、ひいては乃愛自身のこれからさえも左右することになり得る。 ――どくん。 視界が、脈打つように歪んだ。 「?」 眉間を指で押さえる。が、もうその現象は起きない。 首を軽く傾げた。 何か。 嫌なものが、自分の中にいるような感覚を覚えたのだが。