約 2,884,101 件
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/814.html
まったく、人使いが荒い。 砂皿は諦めながらも、小さく、微かに溜め息を吐いた。 場所は高層マンションの一室。 だが周囲に砂皿以外の人影はない。 がらんとした空間。だが砂皿には丁度好かった。 開放された、室内とベランダとを繋ぐ大きく切り取られた空間。 そこから外を吹く強風が部屋へと流れ込んできた。 ばさばさと柔らかいクリーム色のカーテンが翻り背後で耳障りな音を立てる。 が、砂皿にその音は届かない。砂皿にはもはや除き見る小さな穴以上に重要なものはなかった。 メイルイーター――――鋼鉄破り。 そう呼ばれる、二メートルに近い長大な銃を手に、砂皿はその上部に取り付けられたスコープを覗き込んでいる。 既にベランダへと通じるガラス戸は砂皿の手によって取り外されている。 地上から遥か高い空を吹く風を肌に感じるが、砂皿はまるで一本の朽ち倒れた老木がごとく微動だにしない。 柔らかい毛の絨毯に腹這いになりながら、砂皿は肩から上をベランダに突き出すような格好で長銃を構えていた。 目の前にはベランダと、そして空とを隔てる、胸辺りまでの高さを持つ壁。 しかしそこに刻まれた装飾の孔穴を銃眼として、砂皿は抱き縋るように狙撃銃を構える。 標的までは八百メートル弱。 いつもの狙撃よりも距離は近い、と認識する。 時として一キロを超える彼我の距離に弾丸を通じさせなければならないような場合がある。 失敗はできない。 自分のような暗殺を生業とする狙撃兵は一発の重さを十分に知っている。 僅か四十グラムそこそこの銃弾は本来対戦車用に作られたものだ。 それを、例えば人体に向ければどうなるか。 子供でも分かる。考えさせたいとは思わないが。 故に失敗は許されない。 目標以外にこの弾丸は命中してはいけないのだ。 ……もっとも、銃弾は目標に命中したとして、貫通しそのまま飛翔を続け背後の壁へ至るだろうが、そこは学園都市の建築技術に頼る事にする。 何事も妥協は肝心だ。 銃口と、砂皿の視線の先は灰色のビルの屋上。 先程メールで示された地点。 メールの送信者は絹旗最愛。 本文はなく、そこにはGPSの位置情報だけが添付されていた。 意味は考えずとも分かった。要するにそこを弾けというのだ。 目標地点の屋上には人影が三つ。 なるほど、どれを撃てばいいのかは一目瞭然だった。 砂皿が狙撃位置に移動し、現場を把握しようと双眼鏡で覗き込んだちょうどその時。 背の低いオレンジ色のパーカーを纏った少女が、絹旗最愛がスーツ姿の少年、海原光貴に向かって殴りかかるところだった。 双眼鏡を目から離し、何をすればいいのか理解した砂皿は無言のままに準備を始めた。 まずガラス戸を外し狙撃体制を取るためのスペースを確保するところから始め、二脚を据えスコープを覗いた時には屋上は先程の様子とは全く異なっていた。 何やら屋上はクレーターだらけになっていた。 「………………」 屋上の様子は砂皿のするべき事とは関係がない。 僅かに銃を動かし、目標の位置を掴む。 そこから周囲を吹く風の計算などを瞬時にやってのけ、銃口を微調整し、息を止め、心臓よ止まれと念じ、 ――――設定は単発。数は一発で十二分だ。 狭い視界の中で絹旗が一人で吹っ飛び。 そして、砂皿はトリガーを絞る。 タァ――――――ン――――…………、 火薬が炸裂し、人を砕くための音が響いた。 轟音と共に射出された12.7x99mm弾は灰色の雲に覆われた空の下、空間をマッハ二・七で疾走した。 ビル風が強く吹く。 重く、けれど大きい五〇口径ライフル弾はその影響をことさらに受け、その身を微かに流す。 僅か数ミリ。それは決定的な間違いとなりかねない。 距離は八百メートルに近い。ほんの爪先ほどの誤差であっても着弾点は大きく変わる。 しかし、そのビルとビルとに描かれた渓谷は、人工的に計算された風を作る。 なれば狙撃手がそれを含めて全て計算できぬ道理もなく、砂皿もまたその通りだった。 故に激しい風に揉まれながらも、それを悉く助けとして弾丸は駆け抜ける。 眼下に休日の人混みと、日常の談笑を見下ろし。 その上を、純粋な殺意そのものでしかない金属の塊は下界に委細構わず音を切り裂いた。 まるで風に舞うようにその身を虚空に躍らせ、 そして、全くの無感情を以って目標に食らいつき、戦果として真っ赤な花を宙に咲かせた。 ―――――――――――――――――――― 光。 微かに、瞬いた。 小さな、ほんの小さな光は、この世に存在する何者よりも速く自己を主張する。 「――――――」 その小さな灯が何を意味するのか、理解するよりも速く。 動けと念じた。 制限時間は〇・八五七秒と少し。 しかし既に〇・三二八秒が過ぎている。 それだけあれば十分だった。 幸いにして大きく位置を変える必要はない。 ほんの少しだけ腕を跳ね上げるだけでいい。 そうして、過たずに真っ直ぐ飛び込んできたそれを。 抱き締めるように、己が意識の延長線であるものを伸ばし。 ――――――成功。 そうして、大気を切り裂き衝撃波を撒き散らしながら飛来した銃弾は磁界に囚われた。 しかし既に何もかもが手遅れで、だからこそ上手く行く。 先端から後方へ、内角二十一度。 音速の壁を貫いた事を示す衝撃波が発生する。 自然界に存在するには圧倒的過ぎる暴力を背後に現しながら、それ以上の破壊力を持つ殺意の塊は磁場に抱かれ。 差し伸べられた右薬指の付け根から体内に飛び込んだ。 瞬間、五指が吹き飛ぶ。 しかしそれには全く感情を向けることもなく弾丸は容赦なく進入する。 だが、だからこそ。 威力を食われ速度が低下する。 電磁誘導で強引にブレーキをかけながら、しかしそれを振り切らんと弾丸は進み続ける。 肉を削り、骨を砕き、血管を引き千切りながら。 もはやそれは肉体の様をしていなかった。 たおやかに差し伸べられたはずの腕はばらりと広がり、風に巻かれまるでビニールテープのように断裂する。 痛覚を感じるには少々早かった。それが救いとなる。 機械的に、拡大した自らの肉を支点として力を行使する。 ――――おいで。 不自然に弾丸の先端が動く。 鋭く尖り円錐の様子をしたそこは、見えない糸に引かれるかのように首を上げた。 それによって新たな抵抗が発生する。側面を流れる血脂を弾きながら、弾丸は抵抗を少なくしようと機械的に動く。 ――――おいで。 方向が変わる。 水平よりも下へ向けられた射角は、ほんの少しだけ上へ向かう。 ――――おいで。 それを切欠として、音を伴うには速過ぎる高速と共に突き進む弾丸は、なお上を目指す。 手招くのは目には見えない糸。しかしその存在を弾丸は誰よりも確かに感じる。 ――――おいで。 そして弾丸は。 彼女に手を引かれるように。 ――――おいで。 天に向かって飛翔した。 その目で追えるはずのない行方を横目で見送り、彼女は。 ――――まだ、 来るはずの痛みはいつまで経っても現れず。 視界は意志を伴わぬまま、ぐるりと天を向く。 灰色の空。 鈍く光るビル群。 ――――まだ、やるべき事が残って――、 その先端に屹立する、三枚の羽。 その翼は一瞬きらりと光を照り返し、網膜を灼く。 ――――ああ――、――。 その光を仰ぎ見るようにして、彼女はその場にべしゃりと崩れ落ちた。 ―――――――――――――――――――― ばしゃりと、ペンキを叩きつけられたような感触。 それにより世界は赤く染まった。 鼻は風と、そして一秒前まで存在しなかった別の臭いを捕らえる。 「――――――」 べっとりと肌に感じる粘液質のそれを、理解できなかった。 何かは知っている。知っているけれど、それがそうだと認識する事を脳が拒否した。 ――いや、本当に拒否していたのは。 そのぬめりとした嫌な感触の中に確かに存在する、僅かに弾力を持った、破片。 「――――――」 指が勝手に動き、頬を擦る。 にちゃり、と糸を引くような気持ちの悪い感触と、手指の腹に感じるぶよぶよとした質感を持つ小さな塊は。 「――――――」 首が、ゆっくりと捻られる。 ――――見るな。 意志とは無関係に、けれど何か見えない糸に引かれるように、首はゆっくりと回転を続ける。 ――――見るな。 視界の内に広がる真っ赤な世界が、じわじわとその範囲を広げ。 廃ビルの屋上に描かれた真っ赤な花は視界を埋めるように咲き誇り。 ――――見るな。 その中に確かに彼女の残滓を発見して。 ――――見るな――! 海原のすぐそばで体を大きく二つに割られた少女が大量の血液とその肉の破片を周囲に赤々とばら撒き散らばっていた。 真っ赤な、真っ赤な、真っ赤な、 花が咲いていた。 いや、花ではない。 これは花弁だ。歪な楕円を描き、放射状に広がっている。 その付け根の辺りで、少女が一人分、散らばっていた。 周囲に飛び散り点々と赤を広げるそれらは、彼女の失われた部分だろう。 彼女からは右腕がごっそりと欠落していた。 いや、中途半端に胴につながったままの肉の帯がびろびろと伸び赤い液体の中に浮かんでいた。 僅かに三本。 本、という単位が通用する程度の質量で、彼女の右腕があるべき場所は形成されていた。 右肩から胸にかけてはばっくりと口を広げ、生々しい肉色の間から芽を覗かせるように見えるのは肋骨の断面だろうか。 それは本来あるべき場所まで届いておらず、その先にあったのであろう部分はきっと周囲の景色に混ざっているのだろう。 そして、開いた口。 脊椎と肋骨が辛うじてその形を止めた背に当たる部分からは中身が丸ごと吹き飛び、くりぬかれたメロンを髣髴とさせる。 ええと、あれだ。ホテルなんかで出る洒落たフルーツの盛り合わせに使われてる果物の皮でできた容器。 それをひっくり返して中身を全部ぶちまけたような、そんなイメージ。 人の、胸のところがごっそりと削り取られていた。 しかしその腰から下は比較的まともに形を止めていて、 がらんどうな胸部から覗く赤に塗れながらも新鮮な桜色を見せる臓物は寒空の下湯気を立てていた。 そして、首。 頚椎の周りにだけ肉が残り、棒のように細くなったその先。 顔が、残っていた。 けれど、どうしてだか一回り小さい。 その残された面影を見て、ようやく気付く。 口。 下あごがないのだ。 そうして、人体をスプーンで少しずつ削っていったらこうなるのではないかという物体になった、少女だったものが。 海原のすぐ傍でばっくりと咲いていた。 「――――――――――」 足元に、魚の開きのように。 厚さを失い、平らになった少女が。 光を失った眼球は天を向き、しかし何も写してはいない。 「――――――――――」 ごうごうとなっていたはずの風はいつのまにか消えていた。 きらり、きらりとプロペラが光を反射する。 「――――――――――」 いや、風は吹いている。 その証拠に、風力発電機の羽は回り続けている。 風の音が聞こえないだけだ。 「――――――――――」 耳元で。 鳴り続ける音。 嗚呼、それは、 「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!」 自分の声だ。 「――――――――――!」 空気が震える。 「――――――――――!」 風の音は海原の喉の発する振動によってかき消され。 「――――――――――!」 真っ赤に染まった世界を塗り潰そうとするかのように。 「――――――――――!」 せめて彼女と同じく。 「――――――――――!」 喉よ割れよと言わんばかりに。 咆哮は、しかし吹き荒ぶ風によって、それ以上の世界を埋める事はなかった。 風が啼く。 ――――――――――、 震える空気。 ――――――――――、 その中に。 ――――――――――、 ノイズが混じる。 ――――――――――ざ、 砂が流れるような音。 ――――――――――ざざ、 それは屋上、崩れかけたエレベーターへと続く扉のあった場所にぶら下がるように残された。 ――――――――――ざざざ、ざ、 社内放送用だったのであろう年代物のスピーカー。 『ざざざざざざざざ、ざ――――』 そして雑音が不意に途切れ、しかし稼動を示す小さな震えを残し。 確かな音が生まれる。 『――――――――――演算終了』 声が、止んだ。 『――――狙撃手は道路に面した辺を十二時として二時四十八分方向』 震える喉はからからに渇き、しかし裂けてはいない。 『――――距離、七八八』 四肢の感覚はなく、しかし確かに地に足は付いている。 『――――上方、一度二十八分』 目は、水面を見上げるようにぼやけているが、光を受けている。 屹立する影。 見えるのは、きっと建物だろう。 『――――十八階です』 腕よ届けと。 振り下ろした。 「――――――――――――――――――――!!」 その刹那、海原の腕が伸ばされた方向にそびえていたマンションがぐしゃりと達磨落としのように三階分ほどまとめて崩壊し粉塵を撒きながら上の階が落下した ずず…………ん…………、 地響きに足元が揺れ、けれどそんな事はどうでもよかった。 ゆらり、振り向けば、そこに少女の姿はない。 ただ錆の浮いた鉄柵が飴細工のように引き千切られ虚空へと枝を伸ばし、ちょうど人一人が通れるほどの隙間を空けていた。 「――――――」 一瞥して、海原は足元へ視線を投げる。 そこには相変わらず、少女だったものが死肉を撒き散らしていた。 「――――――、ああ」 もはや熱を失い続けるだけと成り果てた少女の傍らに海原は跪く。 「――――――じぶんとしたことが。すみません」 震える声で語りかける。 「――――――まだ、おなまえをうかがっていませんでしたね」 その小さな言葉に、返される答えはなく。 「――――――すみません。――――ありがとう、みさかさん」 虚ろとなった身体に、彼は脱いだスーツの上着をかけた。 寒風に身を晒す少女が、風邪を引かぬように。 響いていたはずの慟哭は吹き抜ける風に灰色の空に巻き上げられ、その行方は誰も知らない。 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/rozenrock/pages/522.html
Story ID cigJyCWL0 氏(115th take) ~~ライブ15分前、ステージ裏~~ 「さぁ、僕たちのクリスマスライブだ、頑張っていこうよ」 「そうね、今夜は特別なライブにしたいわ」 「さぁ、行くわよぉ~ってばらしーはどこぉ?」 「ふゅ~、ばらしーいないのぉ~」 ~~一人で控え室にいるばらしー(ライブ開始10分前)~~ 「……コレは真紅…コレは金糸雀…コレは……」 ~~走って戻ってきたばらしー~~ 「はぁ…はぁ…はぁ…」 「どこにいやがったですかぁ、もう始まるですよ!」 「…ごめんなさい……」 ~~ライブ終了~~ 「お疲れ様ですぅ~」 「おつかれ様なのぉ~」 「じゃ、また明日のライブで会うのだわ、おつかれ様」 「じゃぁねぇ~、メリークリスマスぅ~~」 それぞれ家に帰ったローゼンメイデン。 真紅の鞄から 水銀燈の革ジャンのポケットから 翠星石と蒼星石のコートのポケットから 雛苺のポシェットから 金糸雀のスケジュール帳から 小さな手紙がヒラリと落ちてくる。 うまいとは言えない手書きの文字に、短い内容。 だけど、それを読んだローゼンメイデンのメンバーは暖かい微笑みを浮かべた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ いつもありがとう、うまくしゃべれなくて、話すのが苦手な 私だけど、いつもみんなにはカンシャしてます、みんな大好きです。 この先ずっと、みんなとバンドをして世界中をまわりたいです。 こんなことを言うのは恥ずかしいから手紙にしました。 メリークリスマス ばら水晶 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 引っ込み思案な薔薇水晶、うまく他人と話すことができない薔薇水晶。 他人とちょっとズレてる薔薇水晶、でも薔薇水晶の心は純粋で汚れなく、 彼女の名前のごとく水晶のように輝いています。 そんな薔薇水晶から、きっとこのスレにいるみんなにステキなクリスマス カードが届くでしょう。 短編SS保管庫へ
https://w.atwiki.jp/bokuchu777/pages/125.html
「さて、それではボクは帰るとするが……わかっていると思うが、今後ボクらの行動を邪魔するような真似だけは控えておくれよ」 「そっちこそ、余計なこと口走るんじゃねーぞ。今日のガキ、明らかにユリアさん狙いだ。お前が宣言したんだから、全力で防弾ガラスになれ」 「このボクに命令とはいいご身分だね。いずれ君もボクのすばらしさに気づいた時、それまでの行いを心の底から反省するようになるさ」 「もういいから帰れ。……そういえば、お前どこに住んでるんだ? 誰かの家って感じじゃないよな」 お金は……ああ、ウチの場合は乃愛さんが大量に持ってきてくれたしなぁ。あれ、どこから出てんだ? やっぱ国とか学校からか? 「当面の生活費には困っていないが、家を手に入れることはできない。とはいえ、このボクが! 庶民の家に世話になることなどできるものか! そこでボクは考えた。そう、水も電気もベッドも揃っている施設があるではないか、と」 なんだそれ。なんか変わった施設か何かか? ……ていうか、ホテルにでも住めばいいだろ。 「そう。ボクは今、学校の保健室で寝泊り」 「お前それは威張って言うことじゃねぇよ!? ていうか滅茶苦茶タチ悪いなおい。沙良先生がよく許したな……」 ていうかお前んちに出向くも何もないだろうがそれじゃあ。 「ミス・サラか……最初は彼女の世話になる予定だったのだが、あのましゅまろとかいう生物が。あの謎のぬいぐるみだけは、ボクの美的感覚が許さない――!!」 あー。それで沙良先生と衝突したのか。あの人、大福のこと随分気に入ってたみたいだもんなぁ……。 ていうか、あれカタチ的にましゅまろじゃないだろ。どう考えても大福の形だろ。なんでみんなましゅまろで納得してんだよ。 「まあ、お前がそれでいいのなら何も言わないが……学校にとまるとか、結構不気味な環境だな」 「馴れてしまえばどうということはない。まあ、夜中に目が覚めたときのあの部屋の不気味さにはいまだに馴れることはないが……」 ああ……確かに、あの部屋で夜中目を覚ましたら怖いだろうなぁ……。何しろ、床いっぱいのぬいぐるみがひしめいてるんだし。大福に至っては動くんだもんなあ。他のも動かないとは限らないよな。そう考えると、うん、ホラーハウスだわ、あそこ。 「お前も随分気の毒な環境になってるな……」 「庶民のヒロト君に哀れまれるなど、屈辱もいいところだ。やめてくれたまえ」 ……本気で腹立つんだが。帰れ、お前もう帰れ!! うら! 蹴りだ蹴り!! 「あ、くそ、何を! ええい、やめないか! ボクはもう帰るからね! さっき言ったこと、忘れないでくれたまえよ!!」 「こっちこそ同じことを言わせてもらうからな! うら、さっさと帰れ、アホ王子!!」 エーデルの背中を見送って、家の中に戻――らずに、玄関からも家の外からも死角になっている塀の陰に声をかける。 「もう出てきてもらってかまいませんよ、乃愛さん」 「いやぁ、さすがヒロト君。この私の気配に良くぞ気づいた」 「そりゃああんだけ窓の外からこっちを見ていれば気付きますよ。しかもわざわざ俺にしか見えないように錯覚まで使って?」 窓の外から中の様子を乃愛さんがうかがっているのには気付いていた。それを放っておいたのは何となくそれを彼女が望んでいそうだったということもあるが、単純に魔法を使っていることに気付いたのもある。 彼女の魔法『錯覚』は、その名の通り他者に錯覚を起こさせる。たとえば、窓の外に人がいても、それをいないと錯覚させてしまったりとか、ね。 「あそこで君が私の存在をひたすらに訴えてくれればまた病院だのなんだのの騒ぎになってくれたのに」 「どんだけその悪戯で俺が痛い目を見たと思ってるんですか……それで、何かはなしがあってきたんですよね? 中、入ります?」 「おいおい、最初から答えがわかっているんだからそんな無意味な質問はやめてくれたまえ」 乃愛さんが芝居がかったしぐさで嘆きのしぐさをみせる。ノリノリだな、今日は。 「……じゃあ、公園にでも行きますか」 公園のベンチに座る。 缶のプルを引く音が2つ、公園の闇に溶けていった。 「さて……私がこんな時間に君の家を訪ねた理由は他でもない。今日学校であった、校舎の大破壊について、だ」 「あれですか。ていうか、あの時は周りには人、いなかったと思うんですけど……なんでばれたんですかね?」 「君はどんな学校に通っていると思っているんだ? あんな非常識にもほどがある場所にいて、なぜも何もないだろうに」 そりゃそうだ。魔法の種類は多岐にわたっているし、何よりも応用の仕方でいくらでも効果の幅を広げられる。乃愛さんの『錯覚』は応用によって大きく状況を左右できるし、貴俊は『分離』をこちらが予想もしない方法で応用する。 ……俺? 自分の能力もわからないのに応用なんてできるかよ。 「それでまあ、君と王子くんのその後を気にしてね。その後の少年が何者なのかも気になったし」 「俺とアホ王子はまあ、別に今までと変化なしですよ。たまにいざこざを起こすかも知れませんけど、今後はあんなトイレ丸々だめにするような大喧嘩はしないと思います」 「ふむ、それならまあ、問題はない。王子くんのほうには私から注意しておこう。それで、その後に出てきた少年だが――」 「あの子供が何者なのかはわかりませんが……ユリアさんを狙っているのは間違いないみたいです。アホ王子の事も知ってましたし。……あと、他にも仲間がいるようなことをいっていました」 俺の言葉に、乃愛さんは露骨に顔をしかめる。いや、これは何かに気づいたのか? 「乃愛さん?」 「ん、ああ。ちょっと嫌な想像をしてね。そしてそれは多分あたっているからタチが悪い」 乃愛さんはコーヒーを一気に飲み干すと、暗闇の奥に缶を放り投げた。しばらくしてカシャン音が響いた。どうやらゴミ箱にホールインワンしたらしい。この暗闇の中でどうやったらそんな芸当ができるのか謎だけど。 「ヒロト君。今、世界各地のコミューンで襲撃事件が起こっている。いくつかのコミューンでは今後の維持が困難なほどの被害が出ているらしいのだが……どうもそれぞれの事件の実行犯は1人らしい。そして、その連中はどうやら1つのグループに所属しているらしいということがわかっている」 「……じゃあ、まさかあの子供も!?」 「確証も証拠もない。しかし、私はそう決定した。私の中の直感がそうだと告げている」 直感なんて信じていいのかと思うが、乃愛さんは真剣らしい。 「まあ、単に直感だけで決め付けているわけではないさ。どうにも、その連中中にはは我々のような魔法とは別に、姫と同じ系統の魔法を使う者がいるらしい。彼女らの言うところの、通常魔法を、な。つまり彼らも、姫と同じ異世界からの来訪者というわけだ」 「なるほど……いや、ちょっとタイム。何で俺がそこらへんの事情知ってるって……あー、何でって考えるだけ無駄なのか」 「いやいや、いっておくが私は君らの会話までは知らないよ? その場で起きた少し前の時間の映像を映し出すだけだからね。君がそこまで知っているかどうかは、まあ私なりの推測だな。いや、知っていてくれてよかったよ。知らなかったら記憶をどうにかしないといけないところだった」 ああよかった。話聞いててほんとによかった! だって目の前で乃愛さんったらシャドウボクシングなんて始めるんですもの! やたらと様になっていますけど経験者か何かですか、先生? ところで頭を強く打って記憶を無くすって実際にあるらしいね。 「昔戦場にいたことがあってね。説明すると長いんだが、まずあの時は――」 「聞きたくない! そんなことはいいから早く話を進めましょう先生! 明日も学校があるんだから夜更かしはダメだと思います!!」 「む。生徒からそういわれては仕方がないな。さて、確か連中がひとつのグループだというところまで説明したかな。さて……あの子供が本当にグループに所属していたとして、今後どうなると思う?」 そんな事、考えるまでもなかった。 あの子供がユリアさんを探していて、そいつがそのグループのメンバーだったとするなら。 「そんな化け物みたいな連中が、ここに来るっていうんですか。ユリアさんを奪いにこの街へ」 たった一人でコミューンを相手取る化け物が何人も? 冗談にしても悪趣味が過ぎる。それが事実なのだからなおのことだ。 「そうなる可能性が高いと踏んでいる。まあ、あの子供が私の想像通りの場合、だがな」 「無茶苦茶です。大体、1人でコミューンをつぶすなんて、どんな奴らなんですか?」 「まあ、魔法使いとはいえ所詮は一般人だからな。本当に戦い慣れた……いや、殺し合い慣れた連中とまともに張り合えはしないさ。なまじ魔法なんてものを持っているせいで、無駄な抵抗をしてしまいかねない。考えてみたまえ。君、銃を持った歴戦の兵士に、同じく銃を持ったところで太刀打ちできるかい?」 想像しようとして、無駄だと理解した。勝てるわけがない。所詮俺はただの一般市民だ。多少特別な力を持ったところで同じ一般市民相手には有利なれても、その手のプロを相手にすれば結果は火を見るよりも明らか。 それ以前に――俺に人が、殺せるか? 自分の手が血に染まる様を想像しようとして――くらり、と景色が傾いだ。何か、嫌なものが脳の奥でずるりと這った気がした。 乃愛さんは凍りつく俺に構わず話を続ける。 「君の想像通り。連中に立ち向かった者達はことごとく返り討ちだよ。事件の報告も、逃げた者から受け取った物ばかりだ。そのせいで、連中の魔法についてもイマイチ不明な点が多い。これは、実に厄介だよ」 「厄介って、どんな風に厄介なんですか? そりゃ、相手の能力がわかっていないのは厄介でしょうけど、そんなの、初めて戦う相手なら普通なんじゃ?」 意識を会話に引き戻す。脳内に浮かびあがってきたいやなものを振り払う。 それを意識するなと心が訴えかける。だが、なぜだろう。それを思い出したい、思い出さなくてはならないという意識も、確かにあった。 「私が厄介だといったのはその部分じゃない。すでにわかっている部分だよ、ヒロト君。彼らは、通常魔法を使うんだ」 通常魔法を使う? 確かに、ユリアさんやエーデルが使ったような魔法は凄かったけど、それはどんな能力かはわかっているんだから、まだ対処のしようが――。 いや、違う。そういうことじゃない。わかっている能力とわかっていない能力。この2つが同時に存在することが厄介なんだ。 「気づいたかな? それでこそ私の教え子だ。考えてみたまえ。連中が何か能力を使ったとしよう。さて、それは果たして彼あるいは彼女特有の魔法かそれとも通常魔法か」 「……今日の子供――ポーキァは、自分を雷電の特殊魔法使いだといっていました。けど、確かにそれを証明することはできない」 「そうだ。そのポーキァという子供がもう1度君の前に立ちはだかったとき、君は相手を雷電の魔法使いだと思って戦う。だが、そこでもしまったく違う能力を使い出したら……まあ、さすがに負けるだろうね」 乃愛さんの言うとおりだ。 過去の喧嘩で、相手が魔法を使ってきたことは数度あった。それは、事前に相手の魔法を知っていたこともあったし知らなかったこともあるが……とにかく、魔法使いとの戦いで重要なのは、相手の魔法の性質を見極めることにある。 魔法使いの戦いは、魔法を中心に据えて行われる。戦いのスタイルが魔法によって決定されている。つまり、相手の魔法の性質を見極めることができれば、相手の戦いの隙や弱点もつけるようになってくるのだ。 今日のポーキァとの戦闘に関しても、いくつか弱点となる要素は見つけている。もしもう1度戦えというのなら、そこをうまく利用して戦うことになるだろう。 相手の使う魔法が、雷電の能力に限り、という制限がつくが。 もしポーキァの雷電の魔法が、特殊魔法でなく通常魔法であったのなら。奴はそれこそ、奇想天外な能力を他に有している可能性がある。 「相手の能力をひとつ見極めても、それで終わりじゃない……知っているという余裕、見抜いたという油断、そして、もうひとつあるかもしれないという躊躇い。既知と未知を秤にかけた罠」 「そういうことだ。戦いとは手持ちの札をいかにうまく使うかで勝敗が分かれる。それならば、手持ちの札の数が多ければ多いほど有利になるのは当然だ。彼らは我々よりも多くの手札を持ち、しかも分かっている一枚はその効果が確定していないまさにジョーカーだ。相手はその点、常に我々よりも有利な地点から戦いを始められるわけだ。実に忌々しいな」 口調とは裏腹に、どこかさっぱりとした表情の乃愛さん。何を考えてるんだろう? 「……それで、これからどうするつもりですか? まさか、ユリアさんをそいつらに渡すとかは言い出しませんよね? 今のところ、この世界存続の鍵をにぎっているのはユリアさんなんでしょう?」 「それはな。それに、連中の目的もはっきりとはわかっていないんだ。迂闊なことはできない。とはいえ、手をこまねいているわけにもいかない。このままでは被害がひたすら増え続けるからね」 「調査は続行、それに加え敵となるかもしれない存在の警戒と情報収集。それに、襲撃に対する備えですか……先生も大変ですね」 「……ふむ。この話の流れだと君が協力を申し出てくると思ったのだが……ナイト君に釘でも刺されたかい?」 ……だから。 何で俺やそのの周囲の言動全部わかってるんですか……名探偵か何かですか、あなたは。真実はいつもひとつですか? 「ええ、そうですよ役立たず認定されましたよ! ああせっかく人がせっかく忘れようとしてたのに!」 落ち込む。落ち込むというか、苛立つ。苛立つというか……ああ、もう。感情に頭の中身をかき混ぜられる。何がなんだかわからなくなってくる。 しかし、乃愛さんはそんな俺を見て小さく吹き出した。 「なんなんですか。人が珍しく本気で凹んでいるのに」 「別に君がへこむのは珍しいことでもないだろう。ま、それはともかく、だ。君はどうにも状況に流されやすいなぁ」 「や、それ、美羽にも散々言われたんで。ていうかニヤニヤしないで下さいよ。大体、それ、今関係ないじゃないですか」 俺の言葉に、乃愛さんは目を大きく開いて大げさに驚いてみせた。 「関係? 大有りだとも。君はこのたびの世界崩壊に関する調査に加えてもらえなかった。理由はまあ、魔法の能力についてとかそのあたりだろうな。だが、調査に参加するのが君の目的じゃないだろうに。調査に足手纏い? 大いに結構だろう君の場合は。そのほうがある意味、目的を達しやすいのだから」 先生の言葉は、相変わらず遠まわしで、ヒントをいくつもちりばめるに止まるものだった。 答えは自分で探しましょう。そういうことだ。先生の言葉に耳を傾ける。 「君は状況に流されやすい。周囲に惑わされやすい。もっとクリアになることだ。そうだな、君が言うとしたら……もっと、我が侭になるべきなのだよ、君は。」 「我が侭って……十分、我が侭にやってるつもりですけど」 ていうか、ここでも俺の言葉を引っ張ってくるんですか。微妙に恥ずかしいのでやめてください。 「自分の事というのは、案外わからないものだよ。その点、実は1番良くわかっているのはミユかもしれないね」 「美優が、ですか? あいつはあいつで、自己評価が妙に低いところがありますけど」 「それはそうだが、少なくとも彼女は自分の――欲望? 本心? まあ、なんと言い換えてもいいが、君ら兄妹の中ではそれに対して素直に、一番我が侭にできているよ、健全な意味でね」 健全な我が侭、か。どういう意味だろう。 俺が何のために、今回の調査に加わろうと思ったのか……か。よく考えてみたら、理由、あまり深く考えてなかったかもしれないな……。 美羽がやってるから。美羽の身に危険があるかもしれないから。いや、それなら美羽に無理やりにでも調査に加わるのをやめさせるか、ユリアさんに美羽を入れないように頼むだけだ。俺が加えられなかったことを嘆く理由としては、少しずれている気がする。 「今回は、私はヒロト君の意志を尊重しよう。君がポーキァという少年のことを彼女達に秘密にするのなら、私もそのことは隠し通す。無論、警備は配置させてもらうがね。だが、よく考えるんだ。何故君が、ポーキァの事を彼女達に秘密にしようと考えたのか。なぜ、多少の危険を覚悟の上で彼女達に知らせず、その外側で解決しようと考えるのか。私とよく似た君は――どんな結末の為に、動くのか」 俺の望む、結末? 俺はそのために動いていると、そう、乃愛さんは考えているのか? 俺の知らない俺の意志。それを、乃愛さんはある程度予想しているのか。あるいは、乃愛さんの意志があって、俺の意志もそれと同じだと確信しているのか……。 どちらにせよ、俺は乃愛さんほど脳味噌の活動はよろしくない。じっくりのんびり考えるとするか。 「さて、少し話し込んでしまったな……私はもう帰るとしよう。それではな、ヒロト君。家族で仲良くするんだぞ」 「あっはっはー! 最後の最後で本日最大の難問を思い出させてくれやがりましてありがとうございますっ!!」 あんまりな心遣いに涙が駄々漏れですよ。 「なぁに、頼りがいのある姉役兼担任教師だ、君の家庭環境には常に気を配っているよ。というわけで――明日、ギクシャクしたままだったら大変なことになるよ?」 「無茶言わんで下さい。ていうか、さすがに最大の難関の美羽はもう寝てるでしょう」 「最大の難関……? ぷっ、くはははは! 相変わらずだな、君は。相変わらず女心に疎いようだ。あーおかしい。おかしいって言うか……悪い、滑稽だ君」 「いきなり表情が素に戻ったりなんかするとすっごく冷たくあしらわれてる感じがするんですが?」 しかし乃愛さんは答えない。どうやら自分がしゃべるだけしゃべって満足しちゃったようだ。 アンタって人はー!! 「おやすみ、ヒロト君。……ぷくくっ」 「小声で笑ってもばれてますから!! おやすみなさい」 結局終始乃愛さんのペースだった。 いや、俺なんかがあの人に敵うとは思ってないけどさ……はぁ。帰ろ。時間が経ってるのは事実だしな。 俺は乃愛さんの言葉を思い返し、思考に耽りながら帰路に着いた。 夜中、ひとりでテレビを見てる俺。超寂しい。 ……だって眠れないんだもん。仕方ないじゃあないですか。 「ようやく最近生活リズム戻ってきてたのに、また頭の痛い問題が生まれたせいで……」 「お兄ちゃん……起きてたの?」 いつの間にか、居間の入り口に美優が立っていた。眠そうな目をこすっている。起こしてしまったかな? 「えへへ……ちょっと、眠れなくて……今日は、色々びっくりしたから」 「俺もだよ。ほら、ここ座れよ。ホットミルクでも作ってやるから」 ソファの隣を叩いて、俺はキッチンでホットミルクをつくる。戻ってくると、美優はぽけーっと通販番組を見ていた。そんな真剣に見ても、家庭用ICBMなんて買わないからな。ていうか一万九千八百円っておかしいだろ、どう考えても。 「そういえば、お前は途中までしか話聞いてなかったよな? 今全部聞いとくか?」 「ん~。いいよ、そのうちお姉ちゃんに聞くから。ワタシは、お兄ちゃんとお姉ちゃんが……ううん、みんなが楽しくできればいいから。だから、あんまり、世界とかよくわからないんだ。世界の崩壊、なんて、ちょっと怖いし。お姉ちゃんが危ないことするのも、怖いけど」 「大丈夫だよ。ユリアさん達がついてるし、美羽も、いつもどおりにやってればヘマなんかしないって。俺よりよっぽどしっかりしてるんだから」 頭を撫でてやると、力なく頭をこちらに倒してきた。 「お兄ちゃんもお姉ちゃんも、喧嘩しないでとはいわないよ。でも、ちゃんと、わかり合って欲しいよ」 「………………。ああ、そうだな」 美優の言葉は、静かに体に――心に染み込んでいくようだった。 その通りだと思う。美羽のやることを否定するのではなく、あいつの意志を、希望をちゃんと聞いて、理解する努力はすべきだった。努力を怠ったのは俺だ。少なくとも美羽は自分の意志を伝えようとしていたのだから。 「美優……俺な、お前が上にあがった後、俺に何ができるかって聞いたんだ。まあ、足手まといになるから何もするなって言われたんだけどさ。でも、それが凄く悔しかった。俺は、みんなの為に何もできないんだって、すごく」 「そんな事ないよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは、いつも私達を守ってくれてる。昔からずっと、守ってくれてたよ。ワタシもお姉ちゃんも、そのこと、ちゃんと知ってる」 「守れてたのかなぁ、俺。昔の事思い返すと、どうにも自信がなかったりするんだけど」 そもそも、子供にできることなんかたかが知れているわけで。それで誰かを守るとか、よく口にできていたなと思う。 それだけ必死だったといえるかもしれない。でも、周りが見えていなかっただけともいえるだろう。多分、その両方だった。妹達を守ると、あの雨の日、父の葬儀の日、そう誓ったから。 けど、俺の浅はかな思い込みのせいで、逆に妹達を追い詰めていたこともあったと思う。俺はあの頃から、成長していないんじゃないか。今でもそう思う事がある。 「お兄ちゃんは結果だけを見て言ってるのかも知れないけど、私達はね、お兄ちゃんが私達を守ろうって、そう思ってくれたのが凄く嬉しかったんだよ。それだけで……すごく、救われたの……嬉しかったの。お姉ちゃんも、そう、言ってたよ」 美優の言葉になんて返したらいいのかわからない。嬉しいような、恥ずかしいような、そんな気持ちが湧き上がってくる。 「ん……ありがと。そういってもらえると、まあ、なんだ。とにかく、ありがとな、美優……美羽にも、感謝してる」 「お姉ちゃんが聞いたら、きっと大喜びだよ」 「どーだろうなぁ……今日の事だって、すっごい怒ってるだろうしなぁ」 「お兄ちゃんは、お姉ちゃんが、ユリアさんのお手伝いをするのは、嫌なの?」 美優は純粋な疑問を浮かべている。どうやらこいつは美羽がユリアさんの手伝いをすることに対しては問題視していないらしい。 それは美優の願いがはっきりとしているから。 「嫌っていうか……まあ、危ない目に遭うのは嫌だけど。嫌って言うよりは、怖い、かな。あいつが、いつの間にかいなくなってしまいそうで、ちょっと怖かった。今言いながら気づいたんだけどな、コレ」 苦笑する。乃愛さんに言われてずっと考えていたが、どうにも思いつかなかった答え。その答えに繋がりそうな感情が、ぽろりと、零れ落ちるように出てきた。 ほんとに、ひとりじゃ何もできないな、俺は。考え事ですら人の手を借りないとだめか。美優、ありがとな。情けないお兄ちゃんだな、俺は。 「お兄ちゃんは、お姉ちゃんのこと嫌いになる?」 「はあ? 馬鹿言うなって。俺が美羽のことを嫌いになったりするわけないだろ。お前も美羽も、大切な家族なんだからいつだって大好きだよ……ってなに言わせるんだお前はっ!? めちゃくちゃ恥ずかしいですよお兄ちゃんは!!」 がたっ。 ん? 何か物音が聞こえた気がして、振りかえる。誰もいない。 「気のせいか。まあ、こんな時間にいちいち起きてくる人間がそんなにたくさんいるわけないか」 「私たちは起きてるけどね……あの、そう言えばお兄ちゃん。昔も、こんな風に一緒に夜中にホットミルク飲んだよね……」 何のことかと思ったが、すぐに思い至った。 美優がまだうちに来て間もないころ、俺もいきなり家族が増えて緊張していたんだろう。夜に眠れなくなっていた時期があった。そう、ユリアさん達が来たころみたいな感じだな。 それで、美優もやっぱりうちに慣れていなかったのか、それとも俺が起こしてしまっていたのか……とにかく、俺が起きているとよく目を覚ましてくることがあった。 そんなとき、今みたいに2人並んで、ホットミルクを飲んでいたんだ。 「そんなこともあったな。……美優がきたのが母さんが死んでしばらくしてからだから、もう結構経つな」 「うん……その後すぐに、お父さんが死んじゃったけど……でも、みんなで一生懸命、がんばってきたもんね」 親父がある日突然つれてきた女の子を『お前たちの妹だ』と言い放った時の衝撃は一生忘れないだろう。 「……あのね、お兄ちゃん。お兄ちゃんたちは、お父さんに私の昔の話は聞くなって……言われてたんでしょう?」 「ん、知ってたのか。『辛い事があったから聞かないでやってくれ。ただし、美優が聞いて欲しいと言ったら全部聞いてやれ』そういわれてる」 美優は俺の肩に額を押し付けているおかげで表情が見えない。でも、その体が小刻みに震えている。 「美優、大丈夫か?」 「……ん」 けど、体の震えは消えない。 俺は左腕を美優の肩に手を回し、右腕で背中をやさしくなでる。 美優は俺の胸の当たりのパジャマをぎゅっと掴んで、小さく嗚咽を漏らした。 「ちょっ、兄貴、近っ……!?」 「え?」 振り返る。しかし誰もいない。……え、あのまさか、うちにゴースト様がご在宅とか、そんな状況じゃないですよね? は、はははは……。ま、まさかねぇ。 「お兄ちゃん?」 「あーいや、平気平気。それで、お前の昔がどうかしたのか?」 「あ……うん。あのねお兄ちゃん……私がもし、うちに来る前にすごく……すごく、悪いことをしていたら……取り返しのつかないことをしていたら。お兄ちゃんは、どうする?」 また難しい問題を……。 「どうしようもないだろ、そんなの。もう過ぎたことなんだし。気にするなとは言わないし言えないけど、それでもお前はもう俺の家族なんだ。それに、親父が連れてきたんだぞ? その悪いことにしたって、たぶん親父は受け入れようって思ってお前を連れてきたんだろうし……ああ、よくわからんな。まあ、結論を言えば――」 結論を言うのなら。 そう。俺がたどり着く結論は、いつも変わらない。俺にはそれができるなんて自惚れてるわけじゃない。俺には、それしか目指すものがないから。それしか貫くものがないから。 優先だとか何とか、そういう次元の問題じゃないものが、きっとある。 「俺が美優の兄貴でいるために、美優が俺たちの家族でいられるための最善を尽くすよ」 「うん……ありがと」 小さな呟きの後、低い嗚咽が俺の胸にぶつかる。 俺はその背中を優しくさすりながら、乃愛さんの言葉を思い返していた。 ――一番我が侭にできているよ、健全な意味でね。 美優は、家族みんなで仲良く、幸せになりたいと思っている。そうしてほしいと、俺に訴えかけてきている。そして、自分をその中に入れていてほしいと望んでいる。それこそが、美優の願う結末。 素直に。正直に。 俺もこんな風になれたら、俺も自分の目的を見失うこともないのだろうか。 自分の行く道に惑い、行き場のない苛立ちに体を震わせることもないのだろうか。月を見上げたところで答えは出ない。その答えのあるはずの心は、いまだに虚空をさまよい惑い続けている。 家族を守る、それが俺の出した結論。ただ、それはあくまで結論であり、結末ではないのだ。俺の望む結末は、果たしてどんなものなんだろうか。 美優が泣きつかれて寝てしまうまで、ずっとそんなことを考えていた。
https://w.atwiki.jp/fezgimel/pages/73.html
部隊名 らんらん♪ 歩兵戦力 ∞ 裏方戦力 ∞ 所属国 カセ 部隊長 (´・肉・`) 人数(Act.) (´・ω・`)程度 部隊特徴 (´・ω・`) 部隊タグ (´・ω・`) 初心者育成 (´ิ^益^ิ`) タグ カセ 部隊 総評 (´・ω・`)らんらん♪ (´・ω・`)らんらん♪してね ↓ (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2009-08-10 17 56 50) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2009-08-10 19 36 56) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2009-08-17 19 28 49) (´・ω・`)ちんちん♪ -- 名無しさん (2009-08-17 21 15 23) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2009-08-17 21 56 14) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2009-08-31 13 03 13) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2009-09-01 10 41 56) らん豚帰ってきてー -- 名無しさん (2009-09-07 17 52 22) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2009-11-26 22 09 35) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2011-06-15 00 59 23) (´・ω・`)らんらん♪ -- 名無しさん (2011-09-25 13 53 58) なんかここだけ平和・・・ -- 名無しさん (2011-09-25 21 54 49) (´・ω・`)らんらん♪ -- (´・ω・`)らんらん♪ (2011-09-29 07 05 07) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/bbjp/pages/4.html
【オペレーションルール】 [ 本部、支部 共通 ] 1:必ず参加する。 →オペレーションは参加不参加問わず報酬が貰えます。フリーライドを認めては正直者が馬鹿を見る結果になりかねません。 そのため、オペレーションは必ず参加し、全力を尽くすこと、これがスタートラインとなります。 不参加は最大のタブーでキックの最大の要因となります。 ただ、仕事や用事でどうしても参加できないことはあると思います。 その際は、不参加になってしまうことをログで宣言しておきましょう。そうすればノープロブレムです。 また、全壊した場合も、参加したくても出来なくなるので、ノーカウントです。 2:ユニットは原則投入する。 →オペレーションは全力を尽くすこと。は上記した通りです。「原則」とあるのは、 ユニット投入も不要という指示が出る場合もありえるからです。 3:作戦は必ず見る。 →てんでばらばらに攻撃してはオペレーションは成り立ちません。 作戦があってこそ一体となってオペレーションが行えます。 作戦はリーダーオフィサーが書きます。作戦は必ず見てください。とはいえ、作戦は絶対的なものではありません。 リーダーが寝ているうちに戦局が進み作戦が古いものになっている、ということも多々あります。 また、自分のユニットからすればもっと良い戦術があるんだぜー、ということもあると思います。 その場合は、自己のベストと思う戦いをしてくださって結構です。 ただ、作戦に反した行動をする場合は、一言、その意図を述べるようにしてください。 作戦違背でノーコメントの場合も不参加に準じた扱いを受けます。 4:攻撃後は一言(仮) →せっかく攻撃したのだから、感想を述べると盛り上がると思います。 「ミスりましたすいません・・・」「フレアがミスタッチで・・・」「我ながらGJ過ぎる!」 など、 色々感想あると思います、是非一言述べてから落ちましょう。10秒もかかりません。 また、反省を述べればおそらくどこかしらからアドバイスや慰めの言葉が出るでしょう。 それを踏まえて次回リベンジ!を繰り返せば、一ヶ月後にはエースとなっていること間違いなしです。 仮ルールなので、これに違反しても何もありません。印象が悪くなるかもしれませんが・・・w [ 本部 ] インテル週25個 →本部をチョークポイントメインで活動できるようにするため、インテルノルマを設けます。 週25個は基本的に放置してなければこなせる量です。土曜日の夜10時くらいの時点で判断します。 当然週25個も厳しいくらいに忙しい時期はあるでしょうから、その際は言ってくれれば対応します(一時期ノルマを猶予したり支部に避難するなり)。 当面、「無断で」インテルノルマをこなさなかった人のうち、下位1名を除名対象としたいと思います。 [ 支部 ]
https://w.atwiki.jp/akatonbowiki/pages/11479.html
このページはこちらに移転しました いばら 作詞/カリバネム 一人の短い夜のあと 僕はもう 新しいけもの 真っ白い音が 止んだなら 初めて飛び立つ 夜明けごろ マジメにふざけたフリしてた この世が見えなくなるほどに 青白い闇に浮かべたら 初めて出会えた 可愛い眼 こんなに近くの君を想う いばらのにおいを感じながら おかしな気持ちが絡まって 小さな隙間に手を伸ばす 馬鹿げて偉大にきらめいて 永遠に変わるプラシーボ いつも近くにいてくれたね 誰かが見つけた答えでも 一人の短い夜のあと 僕はもう 新しいけもの 真っ白い音が止んだなら 初めて飛び立つ 夜明けごろ 馬鹿げて偉大にきらめいて 永遠に変わるプラシーボ
https://w.atwiki.jp/dtlog/pages/63.html
ばら系 薔薇の陣営に属するマスター、ユニットを、エリクシールやマハトのものと区別してこう呼んでいる。
https://w.atwiki.jp/kakamiwiki/pages/6.html
世界観共有することについてルールとかそういうのたぶんあるでしょ
https://w.atwiki.jp/dactiltoeb/pages/1312.html
らん ステータス コードネーム 初期HP クラス アマゾネス 装備 ショートボウ 建国暦 紹介 一見ただのlv一桁弱職弱武装の放置初期HPに見えるが、その正体は28774936Gothを有する貯金ランカー! これだけあればHPカンストMPも3000そこらいけるのにそれをしないところに漢を感じる。 いつか共闘してみたい一人です。 (3鯖在住の名無しさん) なんでランキングにものってないのにお金の数がわかるんだろ・・知り合いかな? (名無し) ↑大きな戦争の後とか、上位NT陣が倉庫送りになると見えるぜ (名無し) HPは初期でも、MPは初期とは限らないんだぜ? つまりMPはカンストしながら尚且つあれほどの貯金という可能性が (名無し) これだけの財力と話題性を誇りながら自米では沈黙を守っている。そこに痺れる憧れるゥ! (名無し) 5月28日現在で持ち金30879760Goth この記録を何処まで伸ばすか見ものである。 (名無し) 気がついたら自米を書き込んでらっしゃいました。 ホントにそうなっていて吹いた そして所持金はまもなく4千万である・・・。(8/15現在) (名無し) 11月14日現在、狩られ続けて積み上げた資金は50300974Gothにものぼる。 しかし相変わらずステータスオールF、熟練度F、ALINを貫いている。 (名無し) 12月31日 らん 【 無国籍 】ゼテギネア大陸 46263328 初期HP あ・・・あれ? (名無し)
https://w.atwiki.jp/cherrycircle34/pages/11.html
2歳~4歳までを対象とした東京都府中市の社会教育関係団体に登録されている母子自主活動グループです。 毎週火曜日の午前中、主に京王線府中駅のすぐ隣にあるグリーンプラザにて活動しています。 子供たちをベテランの先生方に保育して頂いている間、ママたちは別室で様々な活動をしています。(活動時間中は私用での外出は出来ません) 子供の団体生活の第一歩に、同じ年頃のお友達をつくりたい、ママもたまには息抜きしたいなど、色々な理由でみなさん参加されています。 ※ 募集要項はこちら - - -